十四話 氷晶雲の幻影とケットの悩みの種(前編)

 お腹に籠を付けた美しい鳥が ・・・

白い大きな羽を広げて ・・・

大空を、気持ちよさそうに旋回しています。

 

 籠の鳥のケットは、雄大な大空を ・・・

のんびりと ・・・ 自由に ・・・

誰にも、邪魔されずに駆け巡るのが大好きでした。

あの日までは ・・・

 

 

 

 

 コキ コキ  コキ コキ

「おーい! ケット! お先に、失礼 ・・・」

人力飛行機の、ララットに追い越されても ・・・

 

 

 ブーン ブーン  ブーン ブーン

「オーッス! ケット。 じゃま、じゃま。」

ヘリコプターの、リコップに追い掛けられても ・・・

 

 

 ゴーッ ゴゴーッ  ゴーッ ゴゴーッ

「ケット! すごいだろう。 このスピード!」

ジェット飛行機の、コードルが自慢して ・・・

大空を、一気に走り抜けて行っても ・・・

 

 

 ビューン ビューン  ビューン ビューン

「ヤッホー! ケット! 一緒に行くかーい ・・・?」

ロケットのアーロンが、しょっちゅう下から飛び出して来て ・・・

宇宙旅行にまで、行く事が出来る様になっても ・・・

大空を、駆け巡るのが大好きでした。

あの日までは ・・・

 

 

 おとうふ山の頂上に ・・・

小さいながらも、寝心地の良い家が有り ・・・

 

 針山母さんに、呼び出されて ・・・

重いたくさんの荷物を、運ばされても ・・・

 

 平凡だけど、それなりに ・・・

楽しく暮らしていたのです。

あの時までは ・・・

 

 ピカッ パカッ  ピカッ パカッ

「何だ ・・・ 何だ ・・・!?」

 

 ピカッ パカッ   ピカッ パカッ

お腹の籠の中で ・・・

金の卵の殻が、割れ始めました。

 

 ピカッ パカッ  ピカッ パカッ

ケットは、大慌て ・・・

「おいおい! 冗談じゃない ・・・」

 

 ピカッ パカッ  ピカッ パカッ

オロオロしている内に ・・・

中から、金の雛が現れました。

 

 

 金の雛は、殻から顔を出すと ・・・

大きく瞳を開いて、ケットを見ています。

 

 ケットも、雛を見ます。

金色の小さな可愛い雛の目が ・・・

貫くように、ケットに注がれます。

 

 目と目が合います。 

ケットは、慌てて ・・・

「違う、違う! 俺はお前の親じゃない!」

 

 すると ・・・

う~ん? と、雛が首を傾げます。

大きな瞳を、開いたまま ・・・

何か? 悩んでいます。

 

「そうだ! 間違えるな!」

ケットが、叫びます。

 

 もう一度 ・・・

う~ん? と、悩んで ・・・

ケットを、よ~く見ています。

 

 すると ・・・

「ムムム ・・・ ムムム ・・・」

ケットを見つめたまま ・・・

「ムムム ・・・ ムムム ・・・」

雛が、しかめっ面をしたまま ・・・

唸っています。

 

 ケットは、苦しそうに悩んでいる雛を見て ・・・

「最近の雛は、悩むものなのかな ・・・?」

不思議に思います。

 

 親になる事なんて、考えた事もないケットは、

最近の子作り、子育て事情に ・・・

ちんぷんかんぷんでした。

 

 

 ケットは ・・・

雛は、コウノトリが福の風に乗って ・・・

運んで来るものと思っていました。

 

「今は、違うのか~? 超特急で ・・・

 金の卵に包まれて、運ばれて来るのか ・・・?」

訳の分からない事を、考えます。

 

「時代は、変わったのか ・・・?

 雄の所にも、運ばれてくるのか~?」

本気で、考えているようです。

 

 

 

 

 そんな、ケットの様子を金の雛は ・・・

 可愛らしい金の瞳でじーっと見つめています。

 

 そして ・・・

雛の瞳が、何かを決心したように ・・・

ゆっくり ・・・閉じられました。

 

 

 ケットは、閉じられて行く金色の瞳を ・・・

瞬きもしないで、見つめています。

 

 すると ・・・ 次の瞬間 ・・・

眩い限りの黄金の光が、辺り一面に輝きました。

 


「うわーっ!」

黄金の光に包まれたケットは ・・・

目の前が光で、何も見えなくなりました。

 

 

 パチ パチ  パチ パチ

突然の出来事に ・・・

 

 パチ パチ  パチ パチ

何回も、瞬きをします。

 

 パチ パチ  パチ パチ

光の星が、瞳の中で暴れて ・・・

 

 パチ パチ  パチ パチ

焦点が、なかなか合いません。

 ようやく ・・・ 周りの景色が見えるようになり

ほっと しているケットの耳に ・・・

「きゃっきゃっ」 と、 ・・・

はしゃぐ赤子の声が、聞こえて来ました。

 

 ケットは ・・・

恐る恐る、お腹の籠を見ます。

 

 そして ・・・ びっくり!

光り輝く金色の髪をした、美しい赤子が ・・・

ニコニコ 笑って、ケットを見ていました。

 

 赤子の可愛らしい瞳は、さっきまで苦しそうに悩んでいた

金の雛と同じ、美しい黄金の色をしていました。

 

 

「おーっ? お前は、さっきの雛か・・・?」

ケットは、考えます。

 

「えーっ!? 最近の子は、変身するのか ・・・?」

ケットは、悩みます。

 

「う~ん? やっぱり ・・・

 子は突然に授かるものなのかな ・・・?」

勝手に、納得して ・・・

 

「そうか ・・・ 俺も親になるのか ・・・?」

勝手に、感動しているケットに ・・・

「ケット! 行くよ!」 と ・・・

元気な、可愛い声が聞こえて来ました。

 

「おーっ! 何だーっ!」

ケットは、目玉が飛び出さんばかりに ・・・びっくり!

ケットの目に映ったものは ・・・

 

 さっきまで金の雛だと思っていた赤子が ・・・

赤子ではなく、幼子になっていたのです。

 

 

 

「えーっ!? 最近の子は ・・・

 こんなにも、成長が速いのか? まさか ・・・?」

口を開けたまま、驚いているケットに ・・・

 

「出発ー!」

大きな声が響いて、ケットの体が浮かび上がり ・・・

金色の光に包まれると、一気に上昇して行きました。

 

「おーい! 待て待て! お前は、何者だーっ!」

ケットの抵抗も空しく ・・・

あっ! と、いう間に見えなくなりました。

 

 

十五話 氷晶雲とケットの悩みの種(後編1)へ 続く ・・・