一七話 木っ端(こっぱ)天狗と

文殊(もんじゅ)の木

 ❉ ~ ❉ ~ ❉  ❉ ~ ❉ 

 昔々 ・・・ 

ある所に、百人の人々がいました。

その人々は、これから自分たちが暮らす国を探していました。

 

 ある時 ・・・

人々の前に、分かれ道が現れました。

右の道は、右の国へ ・・・

左の道は、左の国へ続いています。

 

 百人の人々は、どっちの道へ行けばいいのか悩みました。

考えても考えても、答えが出ないので ・・・

すくれて良い知恵を授けてくれると、言われている

文殊菩薩様の所に、相談に行きました。

 

「菩薩様。

 私達は、右の国へ行けばいいのか、

 左の国へ行けばいいのか、悩んでいます。」

 

 

 文殊菩薩は ・・・

右手に持つ知恵の剣を、頭上に高く掲げます。

すると ・・・

剣が光り輝き、十枚の金貨が現れました。

 

「今から金貨を、右の国の王様に五枚、

 左の国の王様に五枚づつ分け与えます。」

 五枚の金貨で ・・・

右の国の王様は、種と水と光と機械と燃料を買いました。

左の国の王様は、種と水と光と鍬(くわ)と肥料を買いました。

 

 

「選ぶのは、あなた達です。

 これから、分かれ道が三度現れます。

 その都度、自分たちで決めなさい。」

 

 文殊菩薩は、そう言うと ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

左手に持つ青蓮華から ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

美しい蝶が、舞い上がり ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

青い光の中に消えて行きました。

 

 ❉ ~ ❉ ~ ❉ ~ ❉  ❉ 

「知っているわ! 右の国、左の国のお話でしょう。」

 

元気の良い、マチバの声が聞こえて来ます。

 

「小さい頃から、ミロロの家へ遊びに行くと ・・・

  針山母さんが、よくお話ししてくれたわ!」

 

 

「そうだ! 覚えてる。 たしか ・・・

  初めの分かれ道で、右の国へ50人。

  左の国へ50人。半分づつに分かれたんだよな。」

 

ヌッキーの声も、聞こえます。

 

「みんな、知ってたんだね。

  私は、座禅の合間に閂和尚様がよく、

  お話ししてくれたので、興味深く伺っていました。」 

 

小坊主の梵念の声が、返ってきます。

 

 

「それで、どっちに進もうか ・・・?」

 

 二本の分かれ道が、現れて ・・・

迷っているカタンの声が、聞こえて来ました。

 

 

 

 

 カタンと雪駄のヌクマル、ヌっキーと高下駄のアシダ、マチバとシューズのマゼンタ。

そして ・・・ 

梵念の7人は、閂寺を後にしてケットの家のある

おとうふ山の頂上へ向かう途中です。

 

 

 金色の光がもたらす、不思議な出来事に ・・・

 

「とりあえず、ケットが今どうしているのか ・・・?

  様子を見て来なさい。」

 

 

 和尚様の一言で、7人は、おとうふ山の頂上へ向かう事になりました。

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 右の国は ・・・

金貨で買った機械が、休みなく24時間働きます。

みるみる間に、田畑が耕され整備されて行きます。

蒔いた種から野菜が育ち、次々と収穫されて行きます。

 

 

 左の国は ・・・

朝日が昇り、夕日が沈むまでの間、鍬で田畑を耕します。

時間が掛かるけれど、しっかり肥料を撒き種を育てます。

 

 しかし、右の国の半分程しか、野菜を収穫出来ません。

左の国を選んだ人々は、少しづつ疲労感を覚える様になりました。

そして、右の国が羨ましいと思う気持ちが、芽生えて来ていました。

 

 

 そんな日々が続く、ある日 ・・・

青い蝶が現れ、二回目の分かれ道が現れました。

 

 

 ❁ ~ ❁  ❁  ❁  ❁ 

 

「見て! 分かれ道の真ん中の立て札に、何か書いてある。」

 

カタンが、立て札に近寄ります。

 

 

   どちらの道へ行くも、自由なり。

  一方の道、文殊の木が現れ知恵を授けるなり。

  もう一方の道、木っ端天狗が現れ道案内をするなり。

 


 

「えーっ! どっちの道が、どっちなの ・・・?

  木っ端天狗って ・・・?」

 

 マチバが、目を大きく開けます。

マゼンタも、まつ毛の長い目をパチパチさせています。

 

 

「妖しそうなやつだよなーっ!自分たちで選べって事かな。」

 

 ヌッキーが、高下駄のアシダの上にお尻を下して言います。

アシダは、重いヌッキーのお尻をどかせようと ・・・

ジタバタして必死で、もがいています。

 

 

「どうする ・・・? 梵念 ・・・」

 

 カタンが、梵念を見ます。

 雪駄のヌクマルも、心配そうに梵念を見ます。

 

 

 梵念は、微笑むと言いました。

 

「迷った時は ・・・?」

 

 

「あっ!」 「あっ!」 「あっ!」

 

 マチバとマゼンタ、ヌッキーとアシダ、カタンとヌクマルが

声を揃えて ・・・

 

「迷った時は、取りあえず右!」

 

 

 小さい頃から一緒に遊んでいて、一人迷子になると ・・・

必ず右の道を選ぶ事を決めていました。

そうすると必ず、みんなが見つけてくれるからです。

7人は、右の道へ進むことに決めました。

 

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 7人が通り過ぎると ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

分かれ道に、心配そうに見つめている ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

青い蝶が現れました。

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

誰も ・・・ 気が付いていませんでした。

 

 

 

 

 

 

 プカ プカ  プカ プカ

美しい玉露が、ぷかぷかと漂い ・・・

 

 プカ プカ  プカ プカ

真っ白な世界を ・・・

 

 プカ プカ  プカ プカ

白一色の誰もいない所を ・・・

 

 プカ プカ  プカ プカ

ミロロは、一人歩いています。

 

 

 卯の花草原で、イグサを見つけて声を掛けたら ・・・

そのまま、不思議な世界に迷い込んでしまったのです。

 

 

 ミロロは、白い道をゆっくりと歩いています。

しばらくすると、分かれ道が現れました。

 

「分かれ道か? 右ね!」

迷わず決めると、右の道へ進みます。

すると ・・・

 

 

 キラ キラ  キラ キラ

金色の光が ・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

右の道の先に、輝いているのが見えました。

 

 キラ キラ  キラ キラ

光が、近づいて来ます。

 

 キラ キラ  キラ キラ

良く見ると、美しい男の子が走って来ます。

 

 

 ミロロは、良かったと思って ・・・

「ねえ! あなた、誰? どこから来たの?

  ここ、どこだか分かる?」

と、声を掛けました。

 

 

 男の子は、突然声を掛けられて ・・・

びっくりした様に立ち止まりました。

そして、周りを見てキョロキョロしています。

 

「ここよ! 分からない?」

もう一度、声を掛けます。

 

 男の子は、不思議そうな顔をして声のする方を見ています。

 

 

 

 

 初夏の足音が、近づいて来る頃 ・・・

 

  お裁縫箱の家では ・・・

 

「うん~?」

針山母さんが、悩んでいます。

ミロロが、帰って来ないので心配して悩んでいるのかな?

 

 

 テーブルの上に、お皿が二枚!

「迷うわ~?」

違うようです。

 

 

 右のお皿には、フルーツがたくさんのったショートケーキ。

左のお皿には、あんこがたっぷりな大福饅頭。

「うん~? 迷うわ~!」

 

 右のケーキを食べればいいのか?

左の饅頭を食べれはいいのか?

決められず、とっても悩んでいる様子 ・・・

 

 

 すると ・・・

 

「ただいま~!」

ものさし爺さんの、元気な声が聞こえてきました。

 

 

「まあ! お帰りなさい。 お久しぶりね!

  心配してたのよ! 真っ直ぐ畑の野菜が、

   丸くなっちゃうかと思ったわ!」

 

「はっはー! それは、大変じゃーっ!」

 

 すると ・・・

 

 チラ チラ  チラ チラ

ものさし爺さんの後ろから ・・・

 

 チラ チラ  チラ チラ

可愛い水玉の顔が ・・・

 

 チラ チラ  チラ チラ

出たり ・・・ 隠れたり ・・・

 

 チラ チラ  チラ チラ

様子を、伺っています。

 

 

 

「あーっ! ツユユ!」

針山母さんが、大きな声で叫びました。

 

 

 針山母さんの大きな声で、部屋の中から ・・・

ムロロとメロロとモロロが、飛んできました。

 

 

ものさし爺さんが、一緒に連れて来たのは ・・・?

梅雨お化けの、ツユユです。

 

 

 ツユユは・・・

「母さん! 一年ぶりーっ!」

と、元気いっぱいです。

 

「今年は、ちょっと早いけれど ・・・ 来ちゃったーっ!」

と、叫んで大きなお腹に、抱きついて来ました。

 

 そして、ムロロとメロロとモロロと一緒に ・・・

部屋の中に、弾けながら駆けて行きました。

 ツユユが、現れたって事は ・・・?

 

「あーっ! やっぱり!」

 

 ジメジメお化けのシッケと、一本足のアマモーリが、

ちゃっかりテーブルの前に座っていました。

 

 そして ・・・

フルーツいっぱいのショートケーキと ・・・

あんこがタップリの大福饅頭を、美味しそうに食べていました。

 お裁縫箱の家に ・・・

 

いつもの年より、ちょっとだけ早い ・・・

 

梅雨の季節が、やって来ました。

 

 

 

十八話 木っ端天狗と文殊の木2へ ・・・ 続く ・・・