五話 金の卵と闇の国の妖魔達

 広い広~い世界の果てに、深くて暗い一筋の光も届かない

世界の底と呼ばれる場所があります。

 そこには、真っ赤に燃え盛る炎の魔湖とガラスの様に艶やかな

黒曜石の剣の山が不気味に聳えています。

 そして ・・・ 渓谷から轟音と共に豪快に流れ落ちる炎の滝が

魔湖へと続いています。

 湖畔には、銀色の葉を付けた黒い幹の針葉樹が ・・・

赤い炎をキラキラと妖しく映し出しています。

 

 誰もが恐れる闇の国の大王 ・・・

火炎魔大王は、そんな不気味な炎の魔湖の奥深くで ・・・

じーっと耳を澄まし、悪に魅了された者が居ないか

大きな目で、睨みを効かせていると言われています。

 冷酷な恐怖の大王と呼ばれ、人々から恐れられているのです。

 

 

 ガゴ ガゴゴ  ガゴ ガゴゴ

どこかから ・・・ 大きな地響きが聞こえて来ます。

 ガゴ ガゴゴ  ガゴ ガゴゴ

何日か前から、この音は続いています。

 ガゴ ガゴゴ  ガゴ ガゴゴ

「ねえ~っ! ピッピ。この地響き何とかならないの ・・・?」

チョクチョクの声が聞こえます。

 ガゴ ガゴゴ  ガゴ ガゴゴ

「頑張って ・・・ 大変身しちゃったからね。

 しばらく起きないんじゃないかなぁ~?」

 

 

 闇の国の妖魔たちは、最近 ・・・ 寝不足です。

炎の魔湖の奥から、大きな地響きがずーっと続いているのです。

 

  「何とかしてくれぇ~!」

ノッペが、耳を押さえて悲鳴を上げます。

ノッペは、のっぺら坊の顔なしお化けです。

ここ数日の地響きの音に、顔もないのに隈が出来て、げっそりしています。

一本足のアマモーリも、しんなり萎んでしまい飛び跳ねる元気もありません。

ジメジメお化けのシッケも、耳を押さえて地面にべとーっと張り付いています。

 

 

「この音 ・・・ 何とかしてよ~!

 あんな大変身して~ ・・・ 驚かすだけ驚かして ・・・

 この地響きは・・・ 何だよー! 鼾が何で、こんなにでかいんだぁ~?」

マルマルお化けのマールの声も聞こえます。

「大王様も ・・・ きっと、必死だったんだよ。

 闇の黒い扉が  ・・・ 開かなかったんだ!

 あの時 ・・・」

 

 

 火の子のピッピは、火炎魔大王の使い魔です。

炎の魔湖や、闇の国の炎のお世話をするのが仕事です。

あの時も ・・・ 大王様に頼まれて、魔湖の掃除をしていたら ・・・

 

 カチ カチ  カチ カチ

火打石の音が聞こえて来ました。

 カチ カチ  カチ カチ

「お~い ・・・ ピッピ!」

ムロロとメロロの呼んでいる声が聞えて来ました。

 

 

 お裁縫箱の国の人々は、必要な時にピッピを呼んで火を付けて貰うのです。

ピッピは、大急ぎで闇の黒い扉に向かいます。

いつもなら、扉が自然に開いて通り抜けられるのに ・・・

あの日は ・・・ 扉に弾き飛ばされてしまったのです。

何回挑戦しても、扉が開かなかったのです。

 

 

 カチ カチ  カチ カチ

「お~い! 火の子~」

ものさし爺さんの声が聞こえます。

 カチ カチ  カチ カチ

「どうしたの~? ・・・ ピッピ~」

ムロロとメロロの呼んでいる声が、ず~っと続いています。

「早く~ ・・・ 出ておいで~ ・・・」

モロロの声も聞こえます。

ピッピは、不安になって来ました。

 

 

 闇の国には、ずーっと語り継がれている伝説があるのです。

 

 

 黄金の光が瞬く時 ・・・ 闇の扉が閉ざされ ・・・

 世界の黄金律の ・・・ 縦糸と横糸の比が ・・・ 崩れると ・・・

 

 

今 ・・・ まさに ・・・ 闇の国の紺碧の空に、黄金の光が瞬いているのです。

 

 

 「何をしている!」

低く重たい声が、背後から聞こえて来ました。

ピッピが振り向くと ・・・

真っ赤な髪が炎の様に逆立ち ・・・ 鋭い黒い瞳 ・・・艶のある黒い肌 ・・・

背に真っ赤な炎を纏った火炎魔大王が、いかめしい姿で立っていました。

いつの間にか ・・・ 闇の国の妖魔たちも集まり、不安な顔をして見守っていました。

 

 

 「どけ!」

火炎魔大王が、闇の黒い扉に向かいます。

やはり ・・・ いつもは自然に開くはずの扉は、何の反応もありません。

 ユラ ユラリ  ユラ ユラリ

大王の炎が、だんだん大きくなって来ました。

 ユラ ユラリ  ユラ ユラリ

黒い扉が、少し歪み始めました

 ユラ ユラリ  ユラ ユラリ 

大王の火炎が、周りの物を飲み込み始めました。

 ユラ ユラリ  ユラ ユラリ

真っ赤な火炎が一気に燃え上がり ・・・煙が立ち込めて来ました。

 モク モク  モク モク

黒い扉が、大きく歪み始めました。

 モク モク  モク モク

大王は、真っ赤な炎となり ・・・ 黒い扉を睨んでいます。

 モク モク  モク モク 

闇の国の妖魔たちは ・・・

大王の火炎の威力を目の当たりにして、小さくなって震えています。 

 モク モク  モク モク

黒い扉が、わずかに開き始めました。

大王は、すかさず一気に真っ赤な炎の矢と化して、黒い扉に飛び込んだのです。

 

 

 

 

 

 それほど ・・・ 金の果実の輝きは ・・・

火炎魔大王をも、龍に化身させるほどの大きな威力があったのです。

まだ ・・・ 金の卵にも ・・・ なっていないのに ・・・

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

「も~お! うるさいねぇ~!!」

ぼーっと していたピッピは、近くで声がして ・・・ びっくり!

 

コト コト  コト コト

変な音が鳴り始めました。

 コト コト  コト コト

「寝ても ・・・ いられりゃしない~ ・・・ふわぁ~○」

変な声も聞こえてきました。

 

ゴト ゴト  ゴト ゴト

チョクチョクが腰かけていた岩が ・・・ 動き始めました。

 ゴト ゴト  ゴト ゴト

チョクチョクは、慌てて飛びのくと ・・・

「すっかり ・・・ 目が覚めちまったじゃないかえ~ ・・・」

と、言いながら ・・・ポン! ・・・と、岩が ・・・

色白の綺麗な女の人に変身したのです。

 

近くにいた妖魔達は ・・・ びっくり!

「うわぁ~! お岩姉さ~ん ・・・!!」

チョクチョクも ・・・ びっくりして叫びます。

「びっくりさせないでよ~!

 本当に ・・・ 驚かすのが ・・・上手なんだから~ ・・・」

「何を言ってるんだい ・・・ 幽霊がお化けを驚かして ・・・

 どーすんだ~い ・・・ ホホホ ・・・

 それより ・・・ この騒ぎは、何なんだい ・・・ ?」

「あれのせいだよ!」

ピッピが、空を指さします。

 

 普段は、何もない闇の国の紺碧の空に ・・・

黄金の光が瞬いているのです。

 

「これは ・・・ ただ事じゃあ~済まないねえ~」

「何か、知っているの ・・・ ?」

マールも、心配して聞きます。

「言い伝えがあるんだよ ・・・

 黄金の光が瞬く時 ・・・ 剣の山に花が咲くとさ~ ・・・」

「何それ ・・・? どういう意味 ・・・?」

「誰もが恐れる剣の山だよ~ ・・・ 花が咲いたら ・・・

 どうなるんだ~い ・・・ ?」

「お花見かなぁ~?」

( 一一) (ーー゛)

 

 

 「おい!」

低い重たい声が、背後から聞こえて来ました。

妖魔たちは、又も びっくり!

 

 驚いて振り向くと ・・・

火炎魔大王が、鬼の形相で立っていました。

 

「くだらない事を言ってるな!

 ピッピ! 風呂の準備だ! 入るぞ!」

「は~い! 大王様」

 

「風呂 ・・・? どこにあるの ・・・?」

妖魔達は、顔を見合わせます。

 

「魔湖に入るんだ」

ピッピが答えます。

 

「え~っ! あんな ・・・ 何千度もある所に ・・・・?」

妖魔達は、又 びっくりして顔を見合わせます。

 

「スッキー魔を呼んで来い!」

「スッキー魔って ・・・? 北風大王の子分の ・・・?」

なぜ・・・?又 顔を見合わせます。

 

「いちいち うるさいぞ!

 誰が ・・・ あんなに熱い釜に入れる ・・・?」

「スッキー魔に、冷やして貰うんだ!」

ピッピが答えます。

 

「早く行って来い!」

「は~い!」

 

 ピッピは、北風大王の所へ向かいます。

闇の国の妖魔たちは、光の速さで移動します。

だから ・・・ あっ と、 いう間に見えなくなります。

 

 

「お~い! ピッピ!」

火炎魔大王は、北風大王の所へ向かうピッピに心配して声を掛けます。

 

「忘れてた! ・・・ 科学の国の奴らが作った人工衛星には、気をつけろ~

 光が途絶えたら ・・・ 一巻の終わりだぞ~ ・・・

 奈落の底に落ちるぞ~ ・・・ あっ!! 底はここか ・・・」

大王は、そう言うと ・・・ 魔湖の方へ向かいます。

向かいながら ・・・まだ ・・・声がします。

「何で ・・・ あんな物騒な物が空を飛ぶんだぁ~ ・・・」

 

 残った妖魔たちは ・・・ 又 顔を見合わせます。

そして ・・・ クスッ と ・・・ 笑ってしまいました。

 

 火炎魔大王がいれば ・・・ 金の光の輝きの異変も ・・・

心配ない様に ・・・ 思えてきました。

 

 

 

 

六話 金の雛が初めて見たものは ・・・?(前編)へ 続く ・・・