十九話 木っ端天狗と文殊の木3

~  ~  ~  ~  ~  ~

 

 左の国を選んだ人々は、悩んでいました。

 

三回目の分かれ道が、現れ始めたからです。

 

畑仕事と風を起こす仕事は、とても重労働でした。

 

しかし ・・・右の国へ行くのも、ためらいます。

 

 

 すると ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

青い光に包まれて ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

たくさんの美しい蝶たちが、現れました。

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

右の国と左の国を、行ったり来たり ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

キラキラ キラキラ 大きく旋回します。

 

 

 すると ・・・

 

右の国と左の国の真ん中に ・・・

 

大きな大きな、文殊の木が現れました。 

 

    

    ~  ~  ~ ❁ ~  ~  ~

 

 

 

 

  

 「う~ん ・・・? 悩むよな~!」

ヌッキーが、ふわふわ雲が浮かんでいる空を見て悩んでいます。

 

「ほんとね~っ! ほら なんて、思いつかないわ。 ふーっ!」

マチバも、目の前の不思議な物を見て、ため息をつきます。

 

「こんなに小さくて、役に立つの ・・・?」

シューズのマゼンタが、長~いまつ毛をパチパチさせて、首を傾げます。

 

 

 木っ端天狗が持っている杖を振ると ・・・

青い光に包まれて現れた、お椀と釣り糸と団扇と蓑(みの)は、

手のひらに載るほどの、小さな小さな物でした。

 

 

「これこれ! 小っちゃいと思って馬鹿にしておるなーっ!」

木っ端天狗が、枝から枝へ飛び移りながら叫びます。

 

「これらの物は、文殊菩薩様の化身と言われている

  文殊の木が、実らせた宝物じゃぞーっ!」

木っ端天狗は、鼻高々に言います。

 

「えーっ! 文殊の木 ・・・?」

カタンが、驚いて聞き返します。

 

「幻の木と言われている、木の事 ・・・?」

梵念も、興味を持って聞き返します

 

「おおっ! そうじゃ、そうじゃ。

 滅多に、お目にかかる事がない木じゃーっ!」

自慢げに、言います。

 

 そして ・・・

「小っちゃいのは、菩薩様の御心使いじゃ。

 旅をするのに、大きくては邪魔だろうに ・・・はっはっはっ!」

と、相変わらず、あちこちの枝に飛び移りながら言いました。

 

 

 

 

 

~  ~  ~ ❁  ❁ ~  ~

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

青い光に包まれた蝶たちが ・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

文殊の木の周りを、旋回します。

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

そして ・・・青い光の中に、消えて行きます。

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

 

代わりに、文殊の木が青く輝き始めました。

 

 

 

 

 右の国と左の国の人々は ・・・

何事かと、大層驚いて様子を伺います。

 

 すると ・・・

人々の頭の中に、声が聞こえて来ました。

 

 

「文殊の木が、実を付けます。

 一つ願い事が叶います。念じなさい。」

 

 そう告げると ・・・

青い光に包まれた文殊の木は、人々の目の前から

すーっと、幻のように消えてしまいました。

 

 

 人々は、驚いている暇もなく ・・・

慌てて願い事を、それぞれに思い浮かべて念じました。

 

 

~  ~  ~  ~  ~ ❁ 

 

 

 

 

 

 

 「そんなに大勢の人達の念じ事を、

       一斉に聞くことが出来るの ・・・?」

ヌクマルが、心配しています。

 

「大丈夫なんじゃない。 菩薩様だから ・・・

 それで、文殊の木は何の実を付けたの ・・・?

アシダが、興味深々で聞きます。

 

「青く光美しい花が咲いて、青く輝く実を付けたのよ。」

マチバが、うっとりとして言います。

 

「まあっ! 素敵。 見てみたいわ!」

マゼンタも、目を輝かせて言います。

 

 

 

 

 

 ❁ ~  ~  ~  ~  ~

 

 

 文殊の木が付けた青く輝く実の中から ・・・

二つの青い種が、現れました。

種は、右の国と左の国へ一つずつ飛んで行きました。

 

 

 右の国へ飛んで行った種は ・・・

右の国を、ぐるりと一周すると青く光り輝き

右の国を囲む木の塀になりました。。

 

 不思議な事に、その塀は成長して行きました。

風船雲が増える度に、高く高くなって行くのでした。

 

 

 左の国へ飛んで行った種は ・・・

左の国の真ん中で青く輝きながら、くるくると回転し

大きな大きな木の風車になりました。

 

 

 コト コト  コト コト

 

大きな羽根車が、回り始めます。

 

 コト コト  コト コト

 

爽やかな風が、吹き始めます。

 

 左の国の人々は、大喜びです。

これで、右の国から流れて来る風船雲を追い払う

風を起こす仕事が減るからです。

 

 

 コト コト  コト コト

 

 しかし ・・・

風車がもたらす恵みは ・・・

 

 コト コト  コト コト

 

それだけでは、ありませんでした。 

 

 

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

左の国の、肥料たっぷりで育った種は成長し ・・・

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

美味しそうな匂いを漂わせ、大きな実を付けます。

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

その香りは、風車の起こす風に乗って ・・・

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

高い高い、空の上まで漂って行きました。

 

 

 

 

 

 空の上では ・・・

 

 ふわふわ雲のお布団で ・・・

風の神様が、お昼寝をしていました。

すると ・・・

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

どこかから、良い香りが漂って来ます。

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

風の神様は、目を覚ますと ・・・

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

ふわふわ雲の間から顔を出して、下界を見下ろします。

 

 フワ フワ  フワ フワ

 

そして ・・・ 

「あっぱれ! 良い匂いじゃ。」 と言って、大層喜び ・・・

すーっ! と、大きく息を吸い込み

たくさんの風を、左の国に吹きました。

 

 

 

 クル クル  クル クル

 

風車は、たくさんの風を受けて ・・・

 

 クル クル  クル クル

 

勢い良く回転します。

 

 クル クル  クル クル

 

そして、その回転によって得る動力は ・・・

 

 クル クル  クル クル

 

左の国に、大きな喜びをもたらす事でしょう。

 

 

~  ~  ~ ❁ ~  ~  ~

 

 「良かったわね! 左の国の人々もこれで安心ね。」

マチバが、嬉しそうに言います。

 

「ふわふわ雲の中に、風の神様が居るのか ・・・?」

ヌッキーが、空に浮かんでいる、ふわふわ雲を見ながら何か考えています。

 

 そして ・・・

アシダと一緒に、ぴょんと飛び跳ね

「良い事を思いついた!」

と言いながら、ほら話を始めました。

 

 

 

~  ~  ~ ✿ ~  ~  ~ 

 

 ある所に、一人の大男がいました。

その男は、体も大きいが足もとても長く

一歩で、山を軽々と飛び越えてしまいます。

 

 ある時 ・・・

大男が、山々を飛び越えて遊んでいると

目の前に、今までに見たことのない美しい大きな山が現れました。

頭を、ふわふわ雲の上に出しています。

 

 大男は、喜んで一歩で山の頂上に登りました。

山の頂上から景色を見渡すと、下から見ていた

ふわふわ雲が一面に広がっていました。

 

 ふわふわ雲を見ていたら、大男は急にお腹がすいて来ました。

すると ・・・ 大男は、大きな腕をグルグル回し始めました。 

たちまち風の渦巻きが出来、ふわふわ雲が集まって来ました。

そして、大きな大きな綿菓子が、出来ました。

 

 大男は一口で、その綿菓子を食べてしまいました。

 

                       おしまい

 

          ~  ~  ~  ~  ~  ~

 

 

 

 

 

 

 

 「あはは! ヌッキーらしい ・・・」

カタンが、笑顔で言います。

 

「ふかふか雲の綿菓子は、美味しそうだ!」

ヌクマルも、跳ねながら言います。

 

「そんなに大きな綿菓子を食べたら、お腹が爆ぜちゃうわ!」

マチバが、お腹をさすりながら言います。

 

「そうだわ! 右の国の風船雲は、どうなったの ・・・?」

マゼンタが、心配して聞きます。

 

「どんどん増えて行って、空まで届いてしまったんだ!」

梵念が、神妙に答えます。

 

「そうじゃぞー!

  空の上にいるのは ・・・風の神様だけじゃないぞーっ!」

と、木っ端天狗が ・・・

枝から枝へ飛び移り、くるりと回りながら言いました。

 

 

二十話 木っ端天狗と文殊の木4へ 続く