九話 おとうふ山の怪奇

 

 古い古~い昔からの伝説の一つに ・・・

おとうふ山に住んでいる、ひょうきん者の山の主がいたそうです。

麓の里に下りて来ては、悪戯ばかりしていたので、

堪り兼ねた火炎魔大王が、山の奥深くにある洞窟の祠に、閉じ込めてしまったそうです。

 

 それから ・・・

長い長~い月日がたち、誰もが忘れ去り ・・・

伝説さえも、忘れ去られていました。

 お裁縫箱の国の中央に聳える、おとうふ山の木々が真っ赤に紅葉し ・・・

妖しい美しさを漂わせている頃 ・・・

 

 

 

「わあ~! 綺麗ね~」

花の妖精のリリの声が、聞こえます。

「すごいわ~! 山が燃えているようね」

そよ風の妖精のココの声も、聞こえます。

 

 

二人は、飛んで行ってしまった金の卵を追いかけて、おとうふ山の麓まで辿りついていました。

色づいた イチョウや紅葉の落ち葉のじゅうたんで、辺り一面金色に光輝いています。

「この辺りで、黄金の光が輝いたわ ・・・」

リリが、心配して言います。

「そうね。きっと、誰かを認識して変身しちゃったのかしら・・・?

 心配だわ」

ココも、金の卵が今どうしているのか、不安です。 

二人が困っていると ・・・

 

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

美しく紅葉した、小さな手のひらのような落ち葉が、舞い始めました。

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

ココとリリは、びっくり! 周りを見回します。

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

「何 ・・・?」

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

落ち葉は、二人の周りを渦を巻いて舞い上がります。

 

 

 

 

 すると ・・・

周りの空気が揺れて ・・・

透明な羽を背に持ち、尾っぽの毛が糸のように細い

銀色に輝いた美しいカゲロウが、姿を現しました。

 

びっくりまなこで、じーっと見ている二人に ・・・問い掛けます。

「誰 ・・・?」

「聞きたいのは、こっちよ。あなたは、誰 ・・・?」

ココが、言います。

 

「私は、カゲロウ! あなたは ・・・?」

「光の国の妖 ・・・ ・ ・」

リリが、答えようとして ・・・

「ダメよ!」

慌てて ココに、止められます。

カゲロウは気にせず、そのまま続けます。

 

「何をしているの・・・?」

「金の卵を、探しに ・・・ 」

リリが、言おうとすると ・・・

「リリ!!」

また、ココに、止められます。

カゲロウは、ユラユラ揺れながら ・・・

微笑みを浮かべて ・・・

 

「そう ・・・ だから、山が黄金色に輝いたのね。

 気をつけて ・・・ また、会いましょう 。」

と、言い終わると ・・・

妖しい真っ赤な紅葉が舞い上がる、空気の中に消えてしまいました。

 

 ポカ~ンと、している二人に ・・・

 

 トン トン  トン トン

ココの肩を、叩くものがいます。

「キャッ!」

びっくりして振り向くと、誰もいません。

トン トン  トン トン

リリの肩も、叩くものがいます。

振り向いても、やはり誰もいません。

不思議に思って、キョロキョロしている二人に ・・・

 

 コツーン! コツーン!

二人の頭に、卵状の黄色い果実が落ちてきました。

「痛~い!」

頭を押さえながら ・・・

上を見上げると ・・・

頭上の大きな木々たちが、目をパチパチさせて ・・・

二人を、見下ろしていました。

 おとうふ山の麓には、卯の花草原が広がっています。

たくさんの昆虫たちが暮らす、平和で美しい草原に ・・・

最近、変な一行が、目撃されています。

 

 

 

「お~い! チョクチョク!

 そろそろ、一休みじゃ~っ!

 もう、走れん! これ以上無理じゃ~っ!」

ものさし爺さんが、悲鳴を上げます。

 

「そうじゃ! そうじゃ! 無理じゃ~っ!」

巻尺爺さんも、叫びます。

 

 

ものさし爺さんとチョクチョク一行は ・・・

おとうふ山の麓の、卯の花草原まで走って来て、

おから峠に、向かおうとしている所でした。

「もう! しょうがないなぁ~! 金の卵に追い付けないよ」

チョクチョクが、言い返します。

「ほんと! こんなに休んでばかりじゃ、埒が明かないよ!」

マールも、言い返します。

 

 

 ものさし爺さんは、自分の足で走っている訳ではありません。

履物一族の ワラジが、一緒です。

しかし ・・・ ワラジも長~い間、ものさし爺さんと一緒に走り回って来たので、かなりの高齢です。

休み休みじゃないと、もう、若い妖魔達のスピードに、ついて行けないのです。

「まあ~、そんなに急がんでも良いじゃろう~。 紅葉も、見事じゃ~!」

 

 

 

 二人のお爺さんと、チョクチョクたち妖魔の一行の前には、

真っ赤に紅葉した、美しいおとうふ山が妖しく聳えていました。

 

 

 

 

 

 

 おとうふ山の麓には、刃物一族と共に履物一族も、古くから暮らしています。

履物一族は、人々の足として、暮らしに溶け込んでいます。

 

 

「イグサ ・・・ 早くしないと、ミロロが、出かけるわよ~。」

履物一族の、下駄のポックリ 姉さんの声が響きます。

「は~い! 行って来ま~す!」

 

 

 履物一族の草履のイグサは ・・・

小さい頃から、ミロロが出かける時はいつも一緒です。

今日は、学校がある日なので、朝から大変です。

大急ぎで、紅葉が美しい山道を駆け抜けて行きました。

 

 

 

 

 おとうふ山の麓で、平和に暮らす刃物l一族と履物一族の里に ・・・

ある異変が起こり始めていました。

しかし ・・・

まだ、誰も気が付いていませんでした。

 

 

 

 十話 ミロロと愉快な仲間達2 へ ・・・ 続く ・・・