走れ!太っちょトナカイ!

花の流星に乗って(前編)

 光の国は ・・・

クリスマスを間近に控え、てんてこ舞です。

 

 特に、花の妖精は ・・・

大きな大きなボンボの飾り付けに、大忙しです。

 

 

 タタ タタタ  タタ タタタ

リリが、目の前を横切ります。

 

 タタ タタタ  タタ タタタ

ビッグボーイを連れて、慌てて走って行きます。

 

 ビッグボーイは、クリスマスフラワーズの一員です。

クリスマスチェリーとも呼ばれ、みんなから親しまれています。

珊瑚のような、美しい淡い果実を実に付け輝きます。

緑~橙~赤~黄~ ・・・

多彩に変化する、大きな実がボンボを彩ります。

 

 

 フラワーサンタは、植木鉢の縁に腰かけて

その様子を、ニコニコしながら眺めています。

 

 タッタ タタタ  タッタ タタタ

リリが、忙しそうに又戻って来ました。

 

 タッタ タタタ  タッタ タタタ

今度は、リターを連れて走り抜けて行きます。

 

 

 リターも、クリスマスフラワーズの一員です。

クリスマスカクタスと呼ばれ ・・・

透明感のある淡い色の花を咲かせます。

葉のような平らな茎節を伸ばしたり、縮めたりして

美しい音色を出します。

ボンボが、楽しそうにリズムを刻みます。

 

 

 フラワーサンタは、日々成長し ・・・

二葉の頃の、お転婆な姿が影をひそめています。




 

 タッタッ タタタッ  タッタッ タタタッ

「どこにも行かないでね~ ・・・」

 

 タッタッ タタタッ  タッタッ タタタッ

大きな声を出しながら、サンダーソニアを引っ張っていきます。

 

 

 サンダーソニアも、クリスマスフラワーズの一人です。

クリスマスベルズと呼ばれて、リンリンと可愛い鈴の音で、

リターの奏でる音色にリズムを合わせ ・・・

オレンジ色の小さなつぼ型の可憐な花を揺らします。

 

 

 そんな忙しそうな様子のリリに、手を振ります。

フラワーサンタは ・・・

黄緑色の小さな蕾が、膨らみ始めていました。

 タッタカ タタタッ  タッタカ タタタッ

リリが、重そうに株ごと、お花を引っ張って行きます。

 

 タッタカ タタタッ  タッタカ タタタッ

大勢の仲間といつも一緒のピータソンです。

 

 

 クリスマスフラワーズの一員のピーターソンは、

クリスマスを中心に、一重のピンクの可愛らしい花を付けます。

いつも、緑色の葉で覆われているボンボが ・・・

ピンク色の花に囲まれて、恥ずかしそうに照れています。

 

 

 フラワーサンタは ・・・

そんなボンボを、微笑んで見上げています。

隣には ・・・

いつの間にか、昆虫達が集まって来ていました。


 

 タカタカ タッタカタ  タカタカ タッタカタ

「これで ・・・最後よ~ ・・・」

 

 タカタカ タッタカタ  タカタカ タッタカタ

ヘレボレスを先頭に ・・・オリエンタレスや、コシカル達が、

リリの後を恥ずかしそうに、追いかけて行きます。

 

 

 クリスマスフラワーズの一員のヘレボレス達は ・・・

クリスマスローズと呼ばれ、みんな恥ずかしがり屋です。

いつも、うつむき気味に花を咲かせます。

だから ・・・大きなボンボに飾られて、丁度良いのです。

赤く頬を染めた美しいクリスマスローズを ・・・

みんなで、見上げて眺めます。

ボンボも、一緒になって頬を染めています。


 

 クリスマスイブの夜は ・・・

 フラワーズの奏でる軽やかなリズムに乗って ・・・

ボンボの周りは、美しい歌声とキラキラ輝く光に包まれます。


 

 

 リリが、お花畑に戻って来ると ・・・

 

 キャッ キャッ  キャッ キャッ

昆虫達が、はしゃいでいる声が聞こえてきます。

 

 キャッ キャッ  キャッ キャッ

フラワーサンタを囲んで、とても楽しそうに ・・・

 

 

 すると ・・・

そよ風の妖精のココが、久しぶりに顔を出しました。

ニコニコしている、リリを見て ・・・

「リリ! 楽しそうね」

 

 

 キャッ キャッ  キャッ キャッ

昆虫達の、笑い声が続いています。

 

 

「蕾が、膨らみ始めたの!」

リリは、嬉しそうに言います。

 

 

 キャッ キャッ  キャッ キャッ

蕾が、黄緑色から薄い桃色に変わろうとしている

明るいフラワーサンタの笑い声が響きます。

 

 

「まあ! ほんと ・・・?」

ココも、成長したフラワーサンタを見て微笑みます。

 

 

 

 

 

 

 しかし ・・・

微笑んでいたココの瞳から、笑みが消えて行きます。

フラワーサンタを、囲んでいた昆虫達を見て ・・・

 

「リリ! おかしいわ。 変よ!」

リリは、忙しさの余り ・・・

周りの変化に気が付いていませんでした。

 

 

 フラワーサンタと遊んでいた昆虫達の中に ・・・

黒い三角帽子をかぶった、見かけた事のない虫もどきが居たのです。


 虫もどき達は、害があるわけでは有りません。

直ぐにメソメソする、泣き虫もどき。

休んでばかりで動かない、怠け虫もどき。

負けて立ち上がれない、弱虫もどき。

イジイジ落ち込んでばかりの、いじけ虫もどき。

 

 触ると、もどき病が移り ・・・

進行すると、治らなくなってしまいます。

 

 しかし ・・・

 もどきブラザーズは、案外可愛いのです。

だから ・・・

ついつい、かまってしまい手を出してしまうのです

そこの隙を狙って、忍び込んで来るのです。

 

 シク シク  シク シク

泣き虫もどきが、涙を溜めてリリを見ます。

 

 シク シク  シク シク

思わず、貰い泣きしそうになり ・・・

「いけない。 いけない。」

 

 

 イジ イジ  イジ イジ

いじけ虫もどきが、肩を落として寂しそうに背を向けます。

 

 イジ イジ  イジ イジ

思わず、抱きしめそうになり ・・・

「いけない。 いけない。」

 

 モソ モソ  モソ モソ

怠け虫もどきが、ひっくり返ってモソモソしています。

 

モソ モソ  モソ モソ

思わずココは、助けてあげたくなり ・・・

「いけない。 いけない。」

 

 

 ヘナ ヘナ  ヘナ ヘナ

弱虫もどきが、力が抜けたように、その場に崩れ落ちます。

 

ヘナ ヘナ  ヘナ ヘナ

思わず又、駆けよりそうになり ・・・

「いけない。 いけない。」

 

 

 とっても、単純でお人好しの二人です。

フラワーサンタは ・・・

そんな二人を微笑ましく見ています。

 すると ・・・


 ソヨ ソヨ  ソヨ ソヨ

微風が流れ ・・・

 

 ソヨ ソヨ  ソヨ ソヨ

周りの空間が、揺れます。

 

 ソヨ ソヨ  ソヨ ソヨ

気が付くと ・・・


 ソヨ ソヨ  ソヨ ソヨ

黒いマントを羽織った ・・・

魅惑の瞳を持つ、美しい青年が立っていました。

 

 

 もどき虫達が、その青年に気が付くと ・・・

「兄貴~!」

と、叫びながら、飛び付いて行きます。

 

 

 リリ達は、びっくり!

妖しい魔力に ・・・驚いて、動けずにいると ・・・

 

 

「遊んでくれて、ありがとう!」

黒いマントの青年が、リリを見てにっこり微笑みます。

リリは、魅惑の黒い瞳から目が離せません。


「お礼に ・・・これを ・・・」

黒い小さな果実をくれました。

「困った時食べると、願を叶えてくれるよ」

 

 

 そう言い残すと ・・・

又、周りの空気が揺れ ・・・

もどき虫達を連れて、仲良く帰って行きました。

 

 

 リリ達は、驚きのあまり ・・・

しばらくの間、動く事が出来ませんでした。

黒マントの青年がくれた、黒い果実を持ったまま ・・・

 

 

 

 クリスマスイブの前日 ・・・

フラワーサンタは、桃色の蕾が膨らみ

甘い香りを漂わせ、可愛らしさが 増して来ていました。

 

 

 リリは、あの日から ・・・

もどき虫が近づいて来ないか、

大きなどんぐりまなこを見開いて、警戒しています。

 

 

 すると ・・・


 ホワ ホワ  ホワ ホワ

周りの空気が揺れます。


 ホワ ホワ  ホワ ホワ

甘~い香りが、漂います。

 

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

リリが、びっくりして警戒していると ・・・


 ホワ ホワ  ホワ ホワ

桃色の可愛らしい、蕾の精が現れました。


「リリ ・・・この日を迎えられて ・・・嬉しいわ」

蕾の精が、可愛らしく微笑みます。

 

リリは、瞳に湧いてくる涙をこらえながら ・・・

「私もよ ・・・」

と、答えるのが精一杯です。

 

「今から ・・・トナカイを迎えに行って来ます。」

蕾の精が、真っ直ぐにリリを見ます。

 

そして ・・・

「何があっても、必ずトナカイを連れて帰ってきます・・・」

そう言い残すと ・・・

蕾の精は、揺れる空気の中に消えて行きました。

 

 

走れ!太っちょトナカイ!花の流星に乗って

                  後編1へ ・・・ 続く ・・・