走れ!太っちょトナカイ!

花の流星に乗って・・・☆(後編2)

 レインは、走っています。

フラワーサンタの蕾の精を乗せて ・・・

 

 広い大空を ・・・誰よりも速く ・・・

黄金色の角を輝かせ ・・・美しい毛並みをなびかせ ・・・

ちょっとお腹が重いけど ・・・

赤いお鼻を光らせて ・・・フラワーサンタの待つ元へ

 

 

「レイン! ごめんなさい。

 もっと早く来なくては、行けなかったのに・・・」

蕾の精は、可愛らしい声で謝ります。

 

 

 

 蕾の精は ・・・

みんなに見送られ、お花畑を旅立ってから、

直ぐに、パートナーのトナカイを探しました。

しかし ・・・どこにも反応がありませんでした。

普通は、直ぐにパートナーの存在を感じるのです。

蕾の精は、不安を感じます。

 

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い妖しい渦が、現れます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

蕾の精は、まだ気が付いていません。

 

 

 しばらくすると ・・・

行く手に、お花畑が現れました。

どうして ・・・? ここにお花畑が ・・・?

蕾の精は、不思議に思いました。

 

 すると ・・・

お花畑に、先日遊びに来ていた

もどき虫ブラザーズの一人の、怠け虫もどきが居ました。

 

 蕾の精は、純真で人を疑う事を知りません。

近づいて行きます。

 

「何しているの ・・・?」

声を掛けます。

 

 

 

 

 怠け虫もどきは ・・・

蕾の精に気が付くと、屈託のない笑顔で ・・・

「お花を摘んでいるの」

と、にっこり笑います。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い渦が、お花畑に近づいて来ます。

 

「はい。 あげる。」

摘んだお花を、蕾の精にくれます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い渦は妖しく輝き、お花畑を囲みます。

 

「ありがとう。 綺麗ね・・・」

蕾の精は、疑う事を知りません。

お花の匂いを嗅ぎます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い渦は、大きく膨らみお花畑を包みます。

 

 

 

 

 蕾の精は、寒さを感じて目を覚まします。

いつの間にか ・・・寝てしまったのです。

怠け虫もどきを、探します。

どこにも居ません。

 

 フラワーサンタの蕾の精は、疑う事を知りません。

「どこへ行ったのかしら ・・・?」

辺りを見回します。

 

 そして ・・・気が付きます。

「まあ! 遅くなってしまったわ・・・」

急いで、不思議なお花畑を後にします。

 

 

 

 この時 ・・・

もどき虫は、まだ害の少ない子供のままでした。

「いいよ! 謝らなくても。無事で会えたから」

レインは、元気良く答えます。

 

 薄い桃色の蕾の精は ・・・

「良かった ・・・」

桜色に頬を染めて答えます。

温かい時が、流れます。

 

 

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い渦が、又近づいて来ます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

レインは、まだ気が付いていません。

 

 

 広大な空間を、赤い光に導かれ ・・・ 

レインは、全速力で走っています。

 

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

渦が、大きく膨らみます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い妖しい光を放ち、巨大に膨らみます。

 

 

 

「キャー!」

全速力で走っていたレインが、急に止ったので ・・・

蕾の精は、反動で前に飛び出してしまい、レインにぶつかってしまいました。

「ごめんなさい。 でも ・・・どうしたの ・・・?」

 

 

 前を見ると ・・・

巨大な山が、聳えていました。

そして ・・・

頂きから美しい朝の光が、輝き始めました。

 

 

 

「おかしい ・・・? なぜ ・・・ここに山が ・・・?」

振り向くと ・・・

蕾の精が、ぐったり倒れていました。


「おい! どうした ・・・?」

レインが、心配して声を掛けます。


「分からない。 力がはいらない・・・」

蕾の精は、まだ ・・・小さな声で答えます。

 

 

 クリスマスイブの朝を迎え ・・・

フラワーサンタの花が枯れ始めたのです。

 

 

 

 フフ フフフ  フフ フフフ

笑い声が、響きます。

 

 フフ フフフ  フフ フフフ

「この山を、越えられるかな・・・フフフ」

 

 もどき虫ブラザーズの弱虫もどきです。

前回現れた時より、成長しています。

 

 

 

 

 

 

 レインは、クタクタです。

でも、負ける訳にはいけません。

蕾の精を背負い、この山を登らなければ、弱虫もどきに負けてしまいます。

 

 

「レイン ・・・ごめんなさい。 歩けなくて ・・・」

蕾の精が小さな声で、耳元で囁きます。


「謝ってばかりだね」

レインは、元気良く答えます。

 

 レインも、自分の体の変化に気が付いていました。

しかし ・・・

ここで、弱音を吐く訳にはいきません。

弱虫もどきに、負けてしまいます。

 

 

 フラワーサンタの蕾の精は、薄れゆく意識の中で悟ります。

この聳える大きな山は ・・・

 リリの悲しみと後悔が作り出したものだと ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 レインと蕾の精は、暗い底なし沼に落ちて居ました。

這い上がろうとしても、滑り落ちてしまいます。

 

 

 もどき虫ブラザーズのいじけ虫もどきの罠にはまって抜け出せないのです。

もどき虫は、又、一回り大きく成長しています。

 

 

 

 蕾の精は、リリに呼びかけます。


リリ ・・・ リリ ・・・


何度も、何度も、呼びかけます。


リリ ・・・ リリ ・・・


蕾の精は、もう ・・・動く事が出来なくなっていました。

 

 

 光の国は ・・・

赤いポインセチアの葉が輝き ・・・

色とりどりの花々が美しく咲き乱れ ・・・

温かい光が、広大な花園を隅々まで包みます。

 

 

 りりは、枯れてしまったフラワーサンタを抱いて ・・・

泣き疲れて寝ています。

 

 ココも、リリを心配して寄り添っています。

昆虫達も、動かずに じーっと 様子を伺っています。

 

 

 

 何処からともなく ・・・温かい風が、流れて来ます。

すると ・・・

寝ているリリの瞳から、一粒の涙が溢れ ・・・

枯れてしまったフラワーサンタに、流れて行きました。


 

 トン トン  トン トン

リリの、肩をたたく者がいます。


 トン トン  トン トン

リリは、体がだるくて動けません。

 

 

 トン トン  トン トン

「誰 ・・・?」


 トン トン  トン トン

りりは、ゆっくり顔を上げます。

 

 

 

 

 目の前に ・・・

白いフワフワが、居ました。

 

りりは、白いフワフワを見て、涙が溢れます。

「フワフワ ・・・フラワーサンタが、枯れてしまったの」

 

 

「知っているよ」

驚いた顔をしている、りりに ・・・

「涙が、呼びに来たんだ」

 

「えーっ!」

久しぶりに、大きな声が出ます。

 

「手を出して」

又、驚いた顔をしている、リリに ・・・

 

 白いフワフワの美しい手が輝き、光の精が現れました。

光の精は輝きながら、リリの手のひらに止まります。

そして ・・・

黒いマントがくれた果実を引っ張り出し、光で包みます。

そして又、白いフワフワの所へ戻ります。


 

 

「これで、大丈夫」

白いフワフワは、優しく微笑むと ・・・

光の木の実を一つ、りりにくれました。

 

「美味しいよ」

そう言うと、白いフワフワは ・・・

また、素敵な笑顔を残して ・・・

光の国の美しい、澄みきった青空へ戻って行きました。

 

 

 りりは、白いフワフワがくれた光の木の実を食べました。

甘酸っぱくとろける様な果汁は、疲れきったリリの心に沁みます。

温かい涙が ・・・溢れて来ました。

 

 

 

 

 

 

 レインは、走っています。

満開のフラワーサンタの精を乗せて ・・・

でも ・・・

少し戸惑っています。

 

 

「レイン! もう時間がないわ」

フラワーサンタの精の、綺麗な声が聞こえます。

 

 

 

 レインは、枯れてしまった蕾の精を抱いて ・・・

大きな川の前で、立ち尽くしていました。

疲労と悲しみで、倒れてしまいそうなのを、ぐっと堪えて。

すると ・・・

 

 

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

甘い香りが、漂います。

 

ホワ ホワ  ホワ ホワ

温かい風が、流れます。

 

 レインは ・・・

疲れきっていた体に力が漲って来るのを感じていました。

そして ・・・

枯れて茶色くなっていた蕾の精が、微かに動くのを感じます。

 

 

 ホワ ホワ  ホワ ホワ

甘い香りが、広がります。

 

 ホワ ホワ ホワ ホワ

優しい光に、包まれます。

 

 レインは、驚いています。

蕾の精が、みるみるうちに ・・・

茶色が白色になり、白色が薄い桃色に ・・・

そして ・・・

蕾だった花びらが、開き始め ・・・

赤い美しいフラワーサンタの花の精が、姿を現わしたのです。

 

 

 

「レイン! もうすぐ着くわ。」

蕾の頃とは違う声が響きます。

 

「もどき虫達は、追っては来れないわ。」

蕾の精の面影が ・・・消えています。

 

 

 

 満開のフラワーサンタは、無敵です。

もどき虫達は、もう近づく事は出来ません。

渡る事の出来なかった大きな川も ・・・

今は、どこにも見当たりません。

 

 

 レインは、全速力で走ります。

お花畑で持っている、フラワーサンタの元へ ・・・

 

 

 光の国の美しい花園に ・・・

新しい朝の、温かい光りが輝きます。

お花で飾られたボンボが光輝き ・・・

クリスマスフラワーズの美しい歌声とリズムが ・・・

お花畑に流れます。

 

 

 

クリクマスの日 ・・・

リリは、ココに起こされました。

 

 

「りり! りり!」

ココの大きな声で、目が覚めます。

 

 リリが、目を覚ますと ・・・

 目の前に、満開のフラワーサンタが、笑っていました。


「お寝坊ね!」

憎まれ口も、懐かしく思えます。

リリは、涙で前が見えませんでした。

 

 

 

 

 





 

 

 

 レインは、走っています。

満開の美しいフラワーサンタを乗せて ・・・

そして ・・・

頭にフラワーハットを 乗せて ・・・

 

 

 レインが、初めてお花畑に降り立った時 ・・・

みんな大きな、まなこを見開いて固まっていました。

そして ・・・

 

「初めまして、ブタサン。 花の妖精のリリです。」

 

 りりは、まん丸のレインを見て、ブタサンと間違えたのです。

蕾の精が、トナカイを見つけられなかったと思ったのです。

 

「いいえ。 トナカイです。」

レインは、笑顔で答えます。

 

「ごめんなさい。 間違えたお詫びに、これを ・・・」

 

 お花畑に咲いているお花で、フラワーハットを作ってくれました

レインのお気に入りになりました。  

 

 

 そして ・・・

赤い可憐な美しい花を付けたフラワーサンタは ・・・

 

「りり! 女神様のお話をちゃんと 聞かなくっちゃだめよ。」

 

最後まで、生意気な言葉を残して ・・・旅立って行きました。

 

 

 

 フラワーサンタは、誰にでも平等に光の花を咲かせます。

 

世界中に、希望の光の花を咲かせます。

 

 

 クリスマスの夜 ・・・

 

フラワーサンタと太っちょトナカイは ・・・

 

花の流星に乗って ・・・

 

世界中を駆け巡ります。

「モロロー!寒いから、早く窓を閉めなさ~い。」

「は~い。」

 

 ガサ ゴソ  ガサ ゴソ

「誰 ・・・?」

 

 ガサ ゴソ  ガサ ゴソ 

「ブタサン ・・・?」

 

「いいえ。 トナカイです。」

 

 

 

               おしまい