走れ!太っちょトナカイ!   

花の流星に乗って・・・☆(後編1)

 光の国のトナカイは ・・・

黄金色の角 ・・・ 赤い光る鼻 ・・・ 美しい毛並み ・・・

その凛々しい姿は、誰もが憧れ、見惚れてしまう輝きを放します。

 

 そして ・・・

赤い光のリングに導かれ、世界中の夜空を駆け巡ります。

フラワーサンタの蕾の精が、迎えに来るまで ・・・

 

 

 トナカイのレインは、とても真面目で働き者です。

一人ぼっちになっても、自分の勤めを果たします。

 

 

 モグ モグ  モグ モグ

世界中の不要な物を、食べ尽くします。

 

 モグ モグ  モグ モグ

フラワーサンタが、清らかな心が保てる様に ・・・

 

 モグ モグ  モグ モグ

世界中を、大掃除します。

 

 モグ モグ  モグ モグ

フラワーサンタが、喜ぶ様に ・・・



 

 

 

 フラワーサンタの蕾の精は ・・・

足も軽やかに ・・・ 少し、ウキウキしています。

ずーっと探していた、トナカイの反応があったからです。

 

 

 光の国のお花畑を、後にしてから ・・・

かなり時間が掛かってしまいました。

 

 

 蕾の精は、大勢のトナカイの中から、

一瞬でパートナーを感じ取ります。

トナカイも、同じです。

 

 

 しかし ・・・

今回は、なかなか反応が、現れなかったのです。

蕾の精は、不安を感じます。

何か、大きな渦に巻き込まれているようで ・・・

 ガサ ゴソ  ガサ ゴソ

何かが、動く気配がします。

 

 ガサ ゴソ  ガサ ゴソ

だんだん近づいて来ます。

 

 

 蕾の精は、ドキドキしながら息を潜めます。

パートナーの、トナカイの存在を感じるからです。

 

 

 ガサ ゴソ  ガサ ゴソ

かなり大きなものが、動く気配を感じます。

 

 ガサ ゴソ  ガサ ゴソ

もう、目の前に居ます。

 

 

 蕾の精は、波打つ鼓動を両手で押さえます。

そして ・・・やっと会えたパートナーを、見つめ ・・・

見つめ ・・・ 見つめたまま ・・・固まってしまいました。

 

 

 

 フワ フワ  フワ フワ

空気が、優しく揺れます。


 フワ フワ  フワ フワ

甘い香りが、漂います。

 

 

 レインは、食べるのを辞めて、顔を上げます。

そして ・・・嬉しそうに、微笑みます。

 

 

 フワ フワ  フワ フワ

暖かい、空気が近づいて来ます。


 フワ フワ  フワ フワ

辺り一面、甘い香りに包まれます。

 

 

 ずーと待っていた、蕾の精の気配を感じるのです。

一人ぼっちになってから、ずっと不安を感じていたのです。

 

 もしかして ・・・

途中で、トラブルがあって育たなかったのか?

事故か? ・・・ 何か、妨害があるのか?

レインは、心配していたのです。

 

 クリスマスイブまでに、開花しないフラワーサンタは、

枯れてしまいます。

パートナーのトナカイも、同じです。

 

 蕾の精が迎えに来ないトナカイは ・・・

クリスマスイブの夜明けと共に、消えてしまうのです。

 

 

 フワ フワ  フワ フワ

しかし ・・・ 今は ・・・

 

 フワ フワ  フワ フワ

確かに、蕾の精の気配を感じるのです。

 

 フワ フワ  フワ フワ

レインは、走ります。

 

 フワ フワ  フワ フワ

蕾の精を、感じる方へ ・・・

 



 花の妖精達は ・・・

王様の菩提樹の、ボンボの飾りつけが終わって一安心。

みんな、自分のお花畑の飾り付けに忙しそうです。

 

 

 リリも、初めてのクリスマスを迎えて ・・・

お花達と一緒に、飾りつけの準備に大わらわ。

昆虫達と一緒に、走り回っています。

心配していた、もどき虫達は、あれから現れていません。

 

 

 フラワーサンタは、蕾の精が旅立ってから ・・・

一層静かになり、可憐な蕾を付け美しさが増して来ています。

 リリ ・・・  リリ ・・・

誰かが、呼ぶ声が聞こえます。

 リリ ・・・  リリ ・・・

ずーと、呼んでいます。

 

 

 

 クリスマスイブの朝 ・・・

リリは、そよ風の妖精のココに起こされました。

 

 

 リリは、フラワーサンタのそばに咲いている

今、満開のシクラメンのお花をベットにして、ぐっすり寝ていました。

「りり! りり!大変よ!」

ココの大きな呼ぶ声で、目が覚めます。

 

 

 ココは、初めてのクリスマスを迎え ・・・

ウキウキして眠れないので、お空をクルクル駆け回っていました。

すると ・・・

リリの育てているフラワーサンタが、ぐったりして倒れているのです。

 

 

「どうしたの?」

声を掛けても、返事がありません。

「りり! りり!大変よ!」

大きな声で、リリを呼びます。

 

 

 リリは、目の前の光景が、信じられません。

昨日まで、スクスクと成長して美しさが増して来ていた ・・・

フラワーサンタが、しおれているのです。

 

「どうして ・・・?」

リリは、呆然と立ち尽くします。

 

 フラワーサンタは、みるみるうちに ・・・

葉の先が、茶色になり ・・・

花びらの先も、色が変わって来ました。

 

「やめて ・・・どうして ・・・?」

リリは、涙があふれて ・・・声になりません。

ココも、涙でいっぱいです。

 

「やめて ・・・お願い ・・・」

リリは、自分の持ってる花の妖精の力を、フラワーサンタに注ぎます。

しかし ・・・

なんの反応もありません。

 

 仲間の花の妖精達も心配して、集まって来てくれています。

そして ・・・みんなで力を合わせて、フラワーサンタに注ぎます。

しかし ・・・なんの反応もありません。

 

 

 フラワーサンタは、特別な花なのです。

誰にでも、平等に光の花を咲かせます。

世界中に希望の光を咲かせる、大事な花なのです。

 

 

 今、その花が枯れようとしています。

リリは、悲しみと後悔でいっぱいです。



 

 

 

 

「お礼に ・・・ これを ・・・」

何処かから、声が聞こえます。

 

「困った時に食べると、願い事が叶うよ」

頭の中に、響きます。

 

 黒い魅惑の渦が ・・・近づいて来ます。

悲しみに沈んだ、心の隙間に入り誘惑します

 

 いつの間にか、手のひらに ・・・

黒いマントの青年が置いて行った、黒い小さな果実を握り締めていました。

 

「願い事が ・・・叶う ・・・?」

リリは、黒い小さな果実を、見つめます。

 

 

 黒いマントの魅惑の瞳を持つ青年が、置いて行った物は、

普段は、姿を現しません。

心の隙間が、あると現れるのです。

「食べれば ・・・助かる ・・・?」

りりは、黒い果実を握り締めます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い渦が、回り始めます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

「大丈夫 ・・・安心して ・・・」

魅惑の甘い声が、響きます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

悲しみの心を、惑わせます。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

「願い事が ・・・叶う ・・・?」

黒い渦が、膨らみます。

 

 リリ ・・・ リリ ・・・

誰かが、呼ぶ声が聞こえます。

 

 リリ ・・・ リリ ・・・

ずーと、呼んでいます。

 

 

 

「誰 ・・・?」

振り向くと ・・・

桃色の淡い光が、リリを包みます。

 

そして ・・・頭の中に、声が響きます。

 

 

 リリ ・・・ 

花の宿命なの ・・・変えられないわ ・・・

不の命を貰っても ・・・

誰も ・・・ 喜ばないわ ・・・

光りが ・・・灯らないわ ・・・ 

リリ ・・・

ありがとう ・・・楽しかったわ ・・・

 

 レインは、走っています。

フラワーサンタの蕾の精を乗せて ・・・

 

 

 しかし ・・・

蕾の精は、もう意識がありません。

 

 

 また ・・・

ブラックサンタの手下の、もどき虫の一人が立ちはだかります。

 

 

 レインも、もう力が残っていません。

気力だけで、走っています。

 

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

黒い渦が現れ、周りを囲います。

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

「この川は、渡れないだろう ・・・ フフフ」

 

 モヤ モヤ  モヤ モヤ

もどき虫ブラザーズの、泣き虫もどきが ・・・

通せんぼうをして、行く手を遮ります。

 

 

 もどき虫達は、前回現れた時より ・・・

力も、凶暴性も、パワーアップしています。

 

 

 お花畑に現れた時のもどき虫達は、まだ子供でした。

周りに居た誰もが、純粋で不の心を持っていなかったからです。

 

 しかし ・・・

フラワーサンタが、枯れかけ ・・・

リリの心が揺れ始めると、もどき虫達は成長します。

大きく ・・・ 凶暴に ・・・

 

 

「フフフ ・・・ この川は、リリの後悔と絶望の涙の川だ!

 誰も渡る事は、出来ない ・・・フフフ ・・・」

もどきブラザーズの、泣き虫もどきが叫びます。

 

 

 レインは ・・・ 大きな川を見て ・・・

リリの悲しみの深さが、伝わってきます。

きっと ・・・フラワーサンタは ・・・

 

 可憐で可愛らしいフラワーサンタの蕾の精も ・・・

葉が茶色に変わり、薄い桃色の蕾も ・・・

少しずつ ・・・変色が始まっていました。

 

 レインも、自分の運命を悟ります。

光の国のトナカイは、フラワーサンタと一心同体なのです。

自分も、立っているのが精一杯です。


 レインは、蕾の精と初めて会った時の事を思い出します。

桜色の可愛らしい姿を・・・

 

 

 

 

 

 

 フワ フワ  フワ フワ

甘い香りに、誘われて ・・・

 

 フワ フワ  フワ フワ

レインが走って来て見ると ・・・

 

 

 薄い桃色の可愛らしい ・・・

フラワーサンタの蕾の精が居ました。

 

 レインは、可憐で清らかな姿に驚き ・・・

びっくりしています。

 

 

 蕾の精は ・・・

胸に手を置いて、じーっとレインを見ています。

 

 そして ・・・

驚いた表情をして ・・・固まっています。

 

 蕾の精は、確かにパートナーのトナカイの反応を感じていたのです。

しかし ・・・ 現れたのは、ブタサンだったのです。


 

「ごめんなさい。ブタサン。人違いだったわ。」

蕾の精は、がっかりして肩を落とします。

 

「いいえ。 トナカイです。」

レインは、笑顔で答えます。

 

「えっ!」

蕾の精は ・・・

可愛い顔をして、又びっくりしています。

 

 

 レインは ・・・

フラワーサンタの蕾の精が迎えに来るまで ・・・

真面目に光の国のトナカイの勤めを果たしていたので ・・・

まるまる太ってしまったのです。

 

 

 蕾の精は ・・・

間違ってしまったのを恥じらい、頬を染めます。

薄い桃色の蕾の精は ・・・

美しい桜色に変わりました。

 

 

 


走れ!太っちょトナカイ!花の流星に乗って ・・・

      (後編2) へ続く