六話 七色の魔法の光に導かれて・・・

(希望の一粒の涙)後編

匂香をを漂わせて、美しく咲き誇る

ハクモクレンの花のような、真っ白な額から・・・

夜明け前の、大海原の果てに見える水平線のように・・・

赤い一筋の線が、幻の愛を求めて静かに開き始めました。 

赤い炎で包まれた来光のように・・・ 

 

 

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

胸に手を当てていないのに・・・

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

心臓の鼓動が聞えてきます。

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

今まで聞こえていた波の音も、風の音も消え・・・

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

胸の鼓動だけが、静寂の中で響いています。

 

 

 

 

 

 

スッキー魔は、全身恐怖で固まったまま真珠の少女アイを見つめます。

そして・・・

真っ赤に燃え盛り、渦を巻いている海と真珠の少女の赤く燃える瞳を見て・・・

亀のロッパの言葉が、頭の中を嵐のように吹き荒れています。

 

 

あいつが三つ目の目を開くと恐怖が訪れた・・・

海が真っ赤に燃え盛り、波は荒れ狂い

熱で海に生きるもの、すべてが滅び去った。

 

七つの海を治める竜王は、悲しみのあまり怒り狂った。

そして・・・

悲しみと怒りの力で、あいつを必死で抑えようとした。

しかし・・・

愛と欲で支配されている、あいつを・・・

その力だけで抑えることは出来なかった。

 

 

 

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 ドキ ドキ  ドキ ドキ

 

胸の鼓動が、鳴っています。

 

 ドキ ドキ  ドキ ドキ

 

小さな思い出が詰まった・・・

 

 ドキ ドキ  ドキ ドキ

 

暖かい思いと共に・・・

 

 ドキ ドキ  ドキ ドキ

 

両手で押さえて抱きしめます。

 

 

 

 

「サミー! 鮫の長之助が戻って来ないうちに帰った方がいいわ」

真珠の少女アコが、心配して言います。

 

「そうするよ! あのノコギリには、びっくりだ!」

サミーがそう言うと・・・

 

「はい! これ・・・」

アコが、胸の前で両手で大事に抱きしめていたものを、サミーに渡します。

 

「何・・・?」

サミーが、不思議な顔をします。

 

「お礼よ! 盆栽イソギンチャクを作ってくれた・・・」

アコが、はにかみながらサミーを見て答えます。

 

「ありがとう・・・」

サミーは、お礼を言うと、にっこり笑ってアコを見ます。

 

 

 

アコは、頬を染めると戸惑うように、コクンと息を飲み込みます。

そして、振り切るように・・・

 

「速く速く! 長之助が戻ってくるわ!」

両手でサミーの背中を押しながら・・・

 

「それに、お友達が心配して待っているわ!」

笑顔でサミーを見送ります。

 

サミーが、振り向くと・・・

シュンソクとカッパーが、タコクラゲやアンドンクラゲと一緒に

ユラユラ揺れながら待っていました。

 

「あっ! ほんとだ!」

サミーは、シュンソクとカッパーに気づくと・・・振りかえって・・・

 

「アコ~! またな~!」

と、光り輝く笑顔で、手を大きく振りながら友の方へ向かって泳いで行きます。

 

 

 

アコは、寂しそうにサミーを見送りながら・・・

金茶色の亀甲模様の甲羅が自慢の、亀のロッパが,

夢幻のように現れた日のことを思い出しています。

 

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

美しい七色の砂浜で・・・

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

幼い心をときめかせて・・・

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

逸る熱い心を押さえながら・・・

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

鋏の少年が現れるのを待っています。

すると・・・

 

 

 

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

青い海の水平線の彼方から・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

光り輝く大きな波に乗って・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

金茶色の物体が・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

ゆっくりと近づいて来ます。

 

のそり・・・のそり・・・

ゆっくり・・・ゆっくりと・・・

 

アコは、自分の中の高ぶる気持ちが、ゆっくりと鎮まるのを感じて

驚きながら近づいてくるものを見ています。

 

そして・・・

アコの顔を見て、にっこりと、ほほ笑み・・・

諭すように、ゆっくりと語りかけてきました。

 

 

海がざわついていると・・・

 

海が赤い炎で燃え上がると、海の仲間がみんな辛い思いをする。

一人のわがままでな・・・と・・・悲しそうに言いました。

 

熱で侵されると、もう元には戻らない・・・

大事な仲間とも、もう会えない・・・

海が滅びてしまう・・・と・・・辛そうに言いました。

 

余り思い詰めてはいけない・・・

理性の糸が、ぽつんと切れてコントロールできなくなる

抑えても抑えきれなくなる・・・と・・・苦しそうに言いました。

 

周りが見えなくなる前に・・・

相手と自分を、よ~く見つめ直すことが大事だと・・・

優しく言いました。

 

 

亀のロッパは、そう言うと・・・

ゆっくりと静かに、澄んで輝いている青い海へ戻って行きました。

 

ゆっくり・・・ゆっくりと・・・

 

・・・・・ 

 

 

 

 

アコは、友の所へ向かうサミーの後ろ姿を見つめます。

忘れないように目に焼き付けるように・・・

 

サミーは、もう一度振り向くと・・・

笑顔で大きく手を振っています。

アコの想いの詰まった・・・

真珠のお花で飾られた、玉手箱と共に・・・

 

アコは、青く澄んだ海の中をキラキラと輝く海面に向かって

泳いで行くサミーを、悲しそうに見つめています。

 

海面に輝く日の光を浴びて・・・

サミーの自慢の鋏と笑顔が、光り輝いていました。

 

真珠の少女の瞳から・・・

一粒の涙の雫が流れました。

 

 

 

 

。。。◯。。。◯。。。◯。。。◯。。。◯。。。◯。。。◯。。。◯。。。

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

ゆっくり・・・ゆっくり・・・赤い蕾が開くように・・・

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

一筋の水平線の赤い光が大きくなっていきます。

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

ゆっくり・・・ゆっくり・・・真珠の少女の白い顔が・・・

 

 ドクン ドクン  ドクン ドクン

 

灼熱の太陽のように・・・赤い炎に包まれていきます。

 

 

スッキー魔の胸の鼓動が、一層大きく高鳴ります。

そして・・・

荒れ狂った真っ赤な海流が、すべてのものを呑み込み始め・・・

灼熱の風が吹き始めました。

途轍(とてつ)もなく熱い風が、スッキー魔の体を突き抜けていきます。

 

北の国に住んでいる北風大王の子分のスッキー魔は・・・

こんなに熱い風を体に感じるのは、滅多にありません。

 

冷や汗でびっしょりなのか?

熱風でびっしょりなのか?

体中が熱湯に包まれているのを感じています。

緊張と熱で体力が奪われて、目まいがしてきました。

目の前が、クルクル回っています。

 

 

「うわーっ! もう耐えられない! 限界だーっ!」

スッキー魔は、大声で叫ぶと・・・

自分の体を、ふうーっと冷やし始めました。

 

 

 フー ・・・  フー ・・・

 

少しづつ・・・少しづつ・・・周りの空気が冷やされ・・・

 

 フー ・・・  フー ・・・

 

体の周りを包んでいた熱い液体が・・・

 

 フー ・・・  フー ・・・

 

キラキラ輝きながら徐々に固まり始め・・・

 

 フー ・・・  フー ・・・

 

光り輝く氷の少年に変わっていきました。

 

「ふう~っ!」

スッキー魔は、安堵して大きなため息をつきます。

 

 

「あっ!」

気が付くと・・・

目の前に、愛と欲の六本の腕の渦に巻きつかれ・・・

赤い炎で包まれた真珠の少女の、苦悩に満ちた顔がありました。

 

 

スッキー魔の頭の中に、ロッパの言葉が蘇(よみがえ)ります。

アイは・・・幻の少年に触れることは・・・出来なかった・・・

悲しみと怒りでは・・・抑えられない・・・と・・・

 

 

光の氷の少年は、赤く燃えているアイの体に・・・

自分の冷たく凍った腕を伸ばし・・・

そっと優しく抱きしめました。

 

すると・・・

アイの赤い炎で包まれていた熱い体が・・・

ゆっくり・・・ゆっくりと・・・冷やされ・・・

少しづつ・・・少しづつ・・・

純白の真珠の少女の体に戻っていきました。

 

暫くすると・・・

アイの白い額の三つ目の目から・・・

一粒の涙の雫が流れました。

 

すると・・・

 

 シト シト  シト シト

 

スッキー魔の持っていた光玉が・・・

 

 シト シト  シト シト

 

七色に輝き始め・・・

 

 シト シト  シト シト

 

空から霧のような七色の雨が・・・

 

 シト シト  シト シト

 

静かに降り始めました。

 

 シト シト  シト シト

 

 シト シト  シト シト

 

 ・・・・・

 

 ・・・・・

 

 

 

 

「きゃーっ!」

ココの大きな悲鳴が聞こえます。

 

スッキー魔は・・・

気が付くと、目の前に・・・

光の国のそよ風の妖精ココの、驚いた顔がありました。

 

スッキー魔は、訳が分からず・・・

あほ顔で、きょとん・・・と、していると・・・

 

ココのどんぐり眼(まなこ)から・・・

一粒の涙の雫が流れました。

 

 

すると・・・

スッキー魔の持っている光玉が光り輝き始め・・・

二人は、光の中へ吸い込まれて行きました。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サブ~ン  サラサラサラ・・・

 

美しい浜辺の七色の砂が・・・

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

透明な波に揺られて・・・行ったり来たり・・・

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

浜辺に暮らす小さな生き物たちが・・・

 

 ザブ~ン  サラサラサラ・・・

 

波の合間に・・・行ったり来たり・・・

 

 

 

どのくらい気を失っていたのか・・・?

気が付くと・・・

美しい珊瑚礁のお花畑が広がる青い海と・・・

七色に輝く砂浜にいました。

 

「どうしたの? 何が起こったの?」

ココは、驚いてキョロキョロして、スッキー魔を捜します。

 

「スッキー魔!」

大きな声で叫びます。

 

・・・・・

 

 

「そんなに大きな声を出さなくても、ここにいるよ!」

スッキーは、周りの景色を確かめながら答えます。

 

「あっ、良かった・・・いないかと思ったわ!」

ココは、ほっとして・・・

 

「さっきの突風は何・・・?」

ココは、なんの抵抗も出来なくて木の葉のように飛ばされてしまった

大きな風を思い出しています。

 

「北風大王のクシャミだよ!」

スッキー魔は、自分が七色の砂浜に居ることに・・・

ほっとして答えます。

 

「えっ! クシャミがあんなに大きいの? あははは・・・」

ココは、屈託のない顔で笑います。

 

「まあな! 馬鹿が付くほど、でかいんだ!」

スッキー魔は、北風大王の言葉を思い出しています。

 

光に近づくな・・・深入りするな・・・

 

・・・・・

 

ココが、綺麗な細い指で七色の砂をすくいながら・・・

「本当に・・・在ったのね・・・」

虹色の砂浜と青い海を見渡して言います。

 

「何が・・・?」

スッキー魔は、不安に思って聞き返します。

 

ココは、くるっと振り向くと・・・ニコッと笑って・・・

「虹色の砂浜よ! 光の国では、伝説なの!」

と・・・

光り輝く瞳で嬉しそうに、スッキー魔を見て言いました。

 

 

うっ!・・・やばい・・・深入りしそうだ・・・

 

・・・・・

 

 

ココは、スッキー魔の戸惑いも知らず・・・

楽しそうに光の国に伝わる古~い伝説を思い出します。

 

 

 

 

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

 

 

 

 

 

光の国の王様の大事にしている菩提樹に・・・

ある時、七色の光の果実が実りました。

そして、七色の光玉を身に付けた光の妖精が産まれました。

 

眩い限りに輝く七色の光の妖精は、美しい光の国で毎日楽しく暮らしていました。

 

ある時・・・

光の国の近くを、銀色のほうき星が通りかかり・・・

七色の光玉の美しさに、心を奪われてしまいました。

 

そして、七色の光の妖精が油断している間に・・・

七色の光玉を持ち去ってしまいました。

 

七色の光玉を失った光の妖精は、輝きを失い・・・

色のない透明な少女になってしまいました。

 

少女は、悲しみました。

そして、世界中を旅して探し回りました。

何年も・・・何千年・・・何万年も・・・

しかし、光玉を持ち帰ることは出来ませんでした。

 

それから長~い時が過ぎ・・・

王様の大事にしている菩提樹に、金の果実が実りました。

そして、金色の光を持つ美しい皇子が産まれました。

 

光の皇子は、美しい光の国でスクスク育ち・・・

自分のパートナーである七色の光玉を持つ妖精を探しました。

しかし、どこを捜してもいませんでした。

 

ある時・・・

光の皇子は、色のない透明な少女に出会いました。

 

そして、少女が七色の光玉を失くしてしまい・・・

長い間、ずっと探し続けている事をしりました。

 

光の皇子は、七色の光玉の行方を追い、旅にでました。

そして ・・・

銀色のほうき星が、七色の光玉を持ち去ったことを知りました。

 

しかし・・・

七色の光玉は、持ち主が変わった事に反応して自ら砕け・・・

世界中に飛び散ってしまっていました。

 

光の皇子は、世界中を一つ一つ集めて回りました。 

 

 

長~い長~い時間、探し続けました。

すると・・・

励ましてくれるもの・・・温かい声をかけてくれるもの・・・

一緒に探してくれるもの・・・

たくさんの出会いが生まれました。

光の皇子は、お礼に虹のリングをプレゼントしました。

世界中に、七色の虹のリングが輝くようになりました。

 

そして・・・

美しい白い砂浜で、最後の一つを見つけると・・・

散らばっていた光玉が輝き、七色の首飾りになりました。

 

光の皇子は、光の国へ戻ると・・・

色のない透明な少女の首に、七色の首飾りをかけてあげました。

 

すると・・・色のない透明な少女が輝きだし ・・・

眩い限りの美しい七色の虹のリングを持つ、光の妖精に変身しました。

 

七色の光玉を失くしてから・・・

長~い長~い年月が経っていました。

 

光の妖精の瞳から・・・

温かい一粒の涙の雫が流れました。

 

 

 

 

 シト シト  シト シト

 

涙の雫は・・・

 

 シト シト  シト シト

 

七色の虹の雨となり・・・

 

 シト シト  シト シト

 

温かい思いと共に・・・

 

 シト シト  シト シト

 

白い砂浜に・・・静かに降りました。

 

 シト シト  シト シト

 

 ・・・・・

 

白い砂浜は・・・

美しい七色の虹の砂浜に、変わっていきました。

 

 

 

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

 

 

 

「サミー・・・なに持ってるの・・・・?」

 

「これ・・・? 貰ったんだ・・・」

 

パカッ!

 

「えっ!・・・」

 

「うわーっ!・・・」

 

 

 モア モア  モア モア

 

真っ白な煙が・・・

 

 モア モア  モア モア

 

辺り一面に広がります。

 

 モア モア  モア モア

 

すべての想いを飲み込んで・・・

 

 モア モア  モア モア

 

淡い白い光に包まれます。

 

 モア モア  モア モア

 

 モア モア  モア モア

 

 ・・・・・

 

 モア モア  モア モア

 

真っ白な空間に・・・

 

 モア モア  モア モア

 

ぼんやりして、佇んでいると・・・

 

 モア モア  モア モア

 

白い靄の中に・・・

 

 

「サミー!何かいる!」

シュンソクが、何かを見つけました。

 

「えっ! どこ・・・?」

ぼんやりしていたサミーは、慌てて探します。

 

「あそこ・・・何か揺れている・・・」

シュンソクは、目を丸くして良~く確かめます。

 

「あっ! ほんとだ!何だ~?」

サミーも、何かを見つけました。

 

白い霧の中に、釣り糸がユラユラと漂っていました。

 

「釣り糸・・・? なぜ・・・?」

サミーが不思議に思って近づきます。

 

「あっ! 釣り針に何か引っかかってる!」

シュンソクが、何かを見つけました。

 

二人は、目を大きく開いて顔を近づけます。

 

「えっ!?・・・頭領・・・?」

サミーは、もう一度良~く見直します。

シュンソクも、びっくりして見直します。

すると・・・

 

ぼーーーん!・・・

 

突然目の前が爆発して・・・

周りの白い靄が飛び散ります。

 

二人の目の前に・・・

大きな刃物一族の頭領・・・まさかり頭領が現れました。

 

「うわーっ!」

二人は、びっくり仰天!

おもわず・・・

 

「シュンソク! 逃げろー!」

サミーが、叫びます。

 

サミーとシュンソクは・・・

慌てて逃げ始めました。

 

「こらーっ! 待てーっ! 逃げるなーっ!」

まさかり頭領が、もの凄い勢いで追って来ました。

 

「なぜ・・・?」

サミーは、まさかり頭領が、なぜ釣りの餌になっていたのか・・・?

訳が分かりませんでした。

 

 

 

続きは・・・美絽絽の痛快運針伝

   

  二十二話 然る魔(しかるま)の国と闇の国の謎

 

    一話 五月(さつき)の空とお裁縫箱の家 へ・・・

 

              お楽しみ下さい。 (*^_^*)