二十二話 然る魔の国と闇の国の謎

一話 五月(さつき)の空とお裁縫箱の家

お裁縫箱の国に、昔から語り継がれる伝説の一つに・・・

闇の国にあると言われている、古い大きな本の物語があります。

 

その本は・・・

闇の国の黒く不気味に聳える剣の山の奥深くにある

豪華な彫刻で施された大きな扉の部屋の中の

大きなテーブルの上に、ひっそりと置かれているそうです。

 

いつから置かれているのか・・・?

誰が書いたのか・・・?

不思議な謎に包まれています。

 

過去・現在・未来、すべての出来事が綴(つづ)られ・・・

その本の前に立つと、自分の知りたい事のページが

独(ひと)りでに、捲られるとか・・・?

 

でも・・・まだ、最後のページに何が書かれているのか・・・?

誰も見た事がありません。

なぜなら、そのページを望んでも・・・

本に意志があるのか・・・?

決して、そのページが開かれる事はないそうです。

 

その不気味な本の事を、お裁縫箱の国の人々は・・・

厄病神の閻魔帳と呼んでいるのです。

 

 

 

 

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「お~い! チョクチョク! そろそろ一休みじゃ~・・・」

 

「は~い! お爺さん!」

 

爽やかな五月晴れのもと・・・

ものさし爺さんの、はつらつとした元気な声と

真っ直ぐお化けのチョクチョクの可愛い明るい声が・・・

真っ直ぐな実のなる野菜畑に響きます。

 

ナスやキュウリ、カボチャにピーマン・・・

たくさんの野菜の緑色の葉っぱが、日の光を浴びて青々と茂っています。

 

一時は、貧乏神のせいで・・・どうなることかと・・・?

心配していた真っ直ぐ畑が見事に蘇(よみがえ)り・・・

白や黄色、紫やオレンジ色の野菜の花々が、

五月の空に生き生きと咲き誇っています。

 

 

 

 

ものさし爺さんとチョクチョクは・・・

耕した畝(うね)の傍に腰を下ろして休んでいます。

すると・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

白い光の尾をひいて・・・

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

美しい白い蝶が舞って来ました。

 

 

「清々しい・・・日和じゃな~・・・ズズズ・・・」

ものさし爺さんが、お茶をすすりながら・・・

平和な一時を楽しんでいます。

 

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

白い花から黄色い花へ・・・楽しそうに舞っています。

 

 ヒラ ヒラ  ヒラ ヒラ

白い蝶が、チョクチョクの近くにも舞って来ます。

顔の周りを、くるくる・・・くるくる・・・

すると、耳元に近づいて来て・・・

 

「チョクチョク! ゴズが呼んでいるわ・・・」

 

「えっ!」

突然! 蝶に話かけられて・・・

 

「此花(このか)・・・?」

油断していたチョクチョクは、びっくり!

 

「チョクチョク? どうした? 突然立ち上がって・・・ズズズ・・・」

お茶を飲みながら、ものさし爺さんが心配しています。

 

 

風薫る五月(さつき)の空の下・・・

真っ直ぐな実のなる野菜畑に・・・

五月雲が、かかり始めていました。

 

 

 

 

☁ 

 

 

 

 シト シト  シト シト

霧のような五月雨(さみだれ)が静かに降っています。

 

 シト シト  シト シト

紫色の小さな花が・・・

 

 シト シト  シト シト

雨にうたれて、ひっそりと咲いています。

 

 

「マロロ・・・何を見ているの・・・?」

お裁縫箱の家の、扇子の形の窓から外を見ているマロロに

針山母さんが声をかけます。

 

 

「あっ! 母さん・・・見て! 庭に小さな紫色の花が咲いているの」

 

「まあ! 珍しいわ! 忘れな草が咲くなんて・・・

 忘れん坊が、忘れて行ったのかしら・・・?」

 

「クス・・・何それ・・・?」

マロロが、可笑しそうに尋ねます。

 

「知らないの? 闇の国にいる、忘れん坊と言う名の妖魔が

 持っている杖を振ると、みんな記憶を忘れてしまうのよ」

 

「えっ! 良い記憶も・・・? 悪い記憶も・・・?」

驚いてマロロが、聞き返します。

 

「そうよ! すると・・・

 闇の国に忘れな草の花が一輪咲くそうよ・・・不思議ね」

 

「まあ・・・神秘ね・・・」

 

 シト シト  シト シト

五月雨が降る中・・・

可憐に咲いている一輪の紫色の忘れな草を見て・・・

では・・・何故・・・? ここに咲いてるの・・・?

マロロは、不安が入り交じった複雑な気持ちになりました。 

 

 

 

 

 

 

もっとも夜が暗いと言われている・・・

五月雨が・・・しとしと降る夜・・・

し~んと静まりかえった五月闇の中で・・・

 

 

 コト コト  コト コト

小さな音が鳴っているのに、ムロロが気が付きました。

 

 コト コト  コト コト

針山母さんのポケット布団から顔を出して周りの様子を見ます。

しかし・・・暗くて良く見えません。

怖いので、ポケット布団の中へすぐに戻ります。

 

 コト コト  コト コト

メロロも気が付いて、ポケット布団から顔を出します。

キョロキョロして周りを見渡します。

しかし・・・やはり、真っ暗で何も見えません。

メロロも、すぐにポケット布団の中に潜ります。

 

「何だろう・・・?」

怖いけれど、小さな音が気になります。

 

「分からない・・・」

怖いけれど、好奇心の方が大きいようです。

 

二人は、針山母さんのポケット布団から抜け出すと・・・

コトコトと鳴っている、小さな音の正体を突きとめる為に・・

真っ暗な五月闇の中を・・・冒険に出発しました。

 

 

 

二話 秘密のトンネルと妖怪忘れん坊 へ・・・続く・・・