然る魔の国と闇の国の謎

四話 闇の国の獄卒と光の国の妖精

 ふわ~り・・・ふわ~り・・・

 

身の毛がよだつ丑三つ時(うしみつどき)・・・

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

暗くて冷たい空間に・・・

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

どこからともなく、生暖かい白い靄(もや)が忍びより

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・ 

 

暗香だけが漂っています。

 

 

 

 

おとうふ山の平和を守るボックリ隊の兵隊の一人

どんぐり兵のカシは、生暖かい空気に息苦しさを覚え

深~い眠りから意識が戻り始めます。

そして、寝返りをうつと・・・

 

「ん~?」

顔の前に生暖かい白い靄が・・・

半開きだった瞼が、まん丸に開いていきます。

 

「あっ・・・ あっ・・・」

声を上げようとしても、冷や汗が吹き出し

喉が、からっからで、つまって出てきません。

 

 

体も思うように動かず焦るカシの頭の中で、どんぐり兵の仲間のナラの言葉が蘇ります。

 

「カシ! 昨日の夜、見ちゃったよ!」

「何を・・・?」

「分からないよ! でも、ふんわ~りと・・・ 出たんだ!」

 

 

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 サラ サラ  サラ サラ

薄暗い岩牢の一画に、美しい水音が響いています。

 

 サラ サラ  サラ サラ

白い光を放ちながら清らかな泉が湧いています。

その傍で・・・

 

 

「これでいいわ!」

光の国の花の妖精リリの嬉しそうな声が、岩牢に響きます。

 

「リリさん! 今度は、何が咲いたんですか?」

ボックリ隊の隊長のボックリと、どんぐり兵が駆け寄って来ます。

しかし、ナラとカシが少し元気がありません。

 

 

リリは、今までに一度も成功したことがない難しい朱理の花を咲かせることが出来たのが嬉しくて、寂しい岩牢に次々とユニークな花を咲かせているのです。

 

黄色い花びらに黒いドット模様のオトギソウは、昔から伝わるお伽話を雄弁に語り、みんなを楽しませます。

 

ハナシジョウズは、大きな花びらの口を開けて、面白可笑しく笑わせてくれます。

 

ホウキ草は、サッサッサッとお掃除してくれるので、ボックリ隊も大喜びです。

 

フライパンジーは、美味しそうなパンやお菓子を踊りながら焼いてくれます。

 

 

そして今日も、リリの傍には珍花が・・・

手のひらを広げたような5枚葉に、いくつもの細い花びらが円形に開き時計の文字盤を作り出しています。

三方に分かれた雌蕊(めしべ)が、長針短針の役割を果たしている、独特の雰囲気を持つ花が咲いていました。

 

「トケイソウよ! これで、時間の経過が分かるわ!」

にっこりして、リリがボックリ隊に微笑みます。

 

「トケイソウ・・・?」

元気のないカシとナラ・・・

そして、元気いっぱいのクヌギのどんぐり兵達が驚きます。

 

 

「長針短針と・・・ 中針・・・? どうして3本あるの?」

どんぐり兵のどんぐりのクリクリが、不思議に思って聞きます。

 

「中針は、時間を操ることが出来るのよ!

 戻せば過去へ戻れるし、進めれば未来へ行けるのよ!」

 

「ほー凄い! リリさんが、作り出したんですか?」

ボックリ隊長が、感心して聞きます。

 

「フフフ・・・違うわ!

 わたしと同じ光の国の花の妖精コボタンが作りだしたのよ!」

 

「光の国・・・?」

 

「そうよ! わたしの祖国なの。 

 そして、コボタンは、珍花を生み出す博士なのよ!」

 

「博士・・・?」

 

「わたしも、他の国の事は余り分からないけれど、

 光の国は、科学が飛び抜けて進んでいると思うわ!

 あなた達が息吹いたのも、きっと金の光を浴びたからよ!」

 

リリは、金の卵から産まれた光の国の皇子の事を心配します。

どうしてるのかしら・・・?

そして、離れ離れになっってしまったココの事も・・・

 

 

 

 

 

 

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長~い闇暮らしの人生・・・

暗闇と冷たい岩牢は、俺の相棒。

 

今まで誰一人として、この岩牢から抜け出した者はいない。

当たり前だ! 闇の国の獄卒と恐れられる俺が見張っているんだ。

抜け出せるはずがない!

 

絶対にない!

ない! ない! ない!

ありえない!

 

しかし・・・

奴の気配が、ない!

どういう事だ・・・?

 

どこから抜け出た・・・?

いや、俺の守りは完璧だ!

じゃあ・・・どこから・・・?

 

 

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 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

身の毛がよだつ丑三つ時・・・

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

暗くて冷たい空間に・・・

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

 

出た・・これか・・・?

カシとナラが言っていたのは・・・?

 

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

どこからともなく、生暖かい白い靄が忍びより・・・

 

 

うわーっ! なんだ!

声がでない・・・ 体が動かない・・・

 

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

どこからか漂ってくる暗香に包まれて・・・

どんぐりのくりくりは、気が遠くなっていくのでした。

 

 

 

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ななな・・・なんだ!

なぜ・・・? 岩牢が光っているんだ!

 

ん~? 花・・・?

なぜだ・・・? なぜ、花が咲いている。

 

ありえない!

岩牢に花が咲くなんて!

しかし、美しい・・・

 

おい! おい!

観賞している場合じゃない!

 

奴は、どこだ!

いないはずがない!

 

 サラ サラ  サラ サラ

おっ! 水音・・・?

泉か・・・? なぜ・・・?

 

奴は、流れたのか・・・?

まさか、ありえない!

 

あんな大岩が、動くはずがない!

では、奴はどこに・・・?

 

 

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「おはよう! ボックリ隊長!」

眠気顔で起きて来たので、リリが元気良く笑顔であいさつをします。

 

「ああ~おはようございます。 リリさん」

いつもは元気いっぱいのボックリ隊長の様子が変です。

 

「どうしたの?」

リリは、心配します。

 

「出たんです・・・」

隊長が、げっそりした顔で言います。

 

「えっ!」

 

「見たんです・・・」

 

「なに・・・?」

 

「みんなが眠っている丑三つ時に・・・ヒタ・・・ヒタ・・・と・・・」

 

 

「隊長! 僕も見ました。 白い人影を・・・」

どんぐり兵のナラが言います。

 

「隊長! 僕も見ました。 白い牛の影を・・・」

どんぐり兵のカシも言います。

 

「えっ! 牛・・・・?」

リリが、驚きます。

 

「隊長! 実はわたしも・・・見ました」

どんぐりのクリクリも、夜中の不気味な体験を話します。

 

そして、みんな心配顔でシイタケを背負ったクヌギを見ます。

 

申し訳なさそうに、頭をかきながらクヌギが答えます。

「あ~っ・・・ ぐっすり寝てました」

のんびり屋のクヌギです。

 

 

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ありえない!

世の中これでいいのか・・・?

 

まだ、あの美しい花なら分かる。

俺も、多少の美学というものを持っている。

 

しかし、これは何だ!

なぜ・・・? 葉っぱが、ほうきを持って掃除をする。

なぜ・・・? 花が、フライパンを持ってお菓子を焼く。

 

ありえない!

おまけに・・・

 

「旦那、旦那! 一席設けましょう。 座って座って・・・

 あ~・・・隣の八っさんが・・・どじょうを取りに・・・」

 

冗談、ぽいぽい!

なぜ、俺がこんなところで落語を聞かなきゃいけないんだ!

 

ここは、薄暗く冷たい岩牢だぞ!

考えられない!

 

どこから湧いて出て来たんだ!

この、珍花達は何なんだ!

 

ん~? もう一輪花が咲いている。

何だ~? 百合の花か。

 

花に誘われるように、近づいてみた。

 

 

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 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

身の毛がよだつ丑三つ時・・・

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

暗くて冷たい空間に・・・

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

 

あっ! これね! 

生暖かい白い靄・・・感じるわ・・・

 

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

次は、漂って来る暗香・・・

この香りを吸うと意識が薄れるのね。

気を付けなくっちゃ!

 

 

 ふわ~り・・・ ふわ~り・・・

 

来たわ・・・

近くにいる!

ドキドキドキ・・・鼓動が高鳴って・・・

破裂しそうです。

 

 

 

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俺の相棒!

暗くて冷たい岩牢・・・

そこに白い一輪の百合の花が咲いている。

 

ありえない!

長~い闇暮らしの中で初めてだ!

なぜ・・・? ここに・・・

 

ん・・・?

百合の花が、小刻みに揺れている。

なぜ・・・?

 

好奇心に誘われるまま、覗いて見た。

すると・・・

 

ぼぼぼぼぼ~ん!

百合の花から、何かが飛び出して来た。

 

顔が、黄色い花粉で覆われた。

ありえない!

 

 

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ぼぼぼぼぼ~ん!

 

「今よ!」

リリの合図と共に、ボックリ隊が暗闇から飛び出して来ます。

 

「撃てーっ!」

ボックリ隊長の大きな声が響きます。

 

ぼ~ん! ぼぼ~ん!・・・ ぼぼぼ~ん!・・・

どんぐり兵の構える、テッポウユリから黄色い花粉玉が

次から次へと、勢いよく飛び出してきました。

 

 

闇の国の獄卒。

体は人間で牛の頭のゴズは、みるみる内に・・・

黄色い花粉で覆われてしまいました。

 

「ありえない!」

牛の頭を抱えて、嘆くゴズでした。

 

 

 

五話  風の穴の謎と紗枝の神 へ ・・・ 続く