厄病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

花の牢獄(その五)

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 男は、空間を見つめていた。

 

映画のスクリーンのように ・・・

 

次々と現れる光景を ・・・

 

 

 男は、不思議に思った。

 

現れるのは、白い蝶と ・・・

 

あの変なものから変身する少年だけだ。

 

驚く事に、その少年は ・・・

 

引っ張ると、ものを伸ばす事ができるらしい

 

びっくりだ!

 

 

 誰かの ・・・夢の中か ・・・?

 

幻影か ・・・? だと、したら ・・・

 

男は、ある事に気がついた。

 

 

 白い蝶は ・・・

 

あの少年の事が好きだ。

 

 

 すると ・・・突然 ・・・

 

バリバリバリ ・・・・

 

頭がわれるような痛みとともに ・・・

 

頭上の青空に、ひびが入った。

 

えっ! ・・・驚いていると ・・・

 

空が、割れて崩れ落ちてきた。

 

 

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 ひゅ~っ ・・・  ひゅ~っ ・・・

 

秋も深まった、お裁縫箱の国に ・・・

 

 ひゅ~っ ・・・  ひゅ~っ ・・・

 

冷たい木枯らしが、吹き始めます。

 

 ひゅ~っ ・・・  ひゅ~っ ・・・

 

実りの秋なのに ・・・

 

 ひゅ~っ ・・・  ひゅ~っ ・・・

 

何も実っていない真っ直ぐ畑の片隅で ・・・

 

 

 ただでさえ、古~いお裁縫箱の家が ・・・

ますますボロくなり、寒さで振るえています。

今にも倒れそうな家が、必死で踏ん張って立っています。

 

 指ぬき父さんも、大わらわ!

傾く家に ・・・なすすべもなく、肩を落とします。

秋の冷たい風が、一層身に沁みます。

 ひゅ~っ ・・・

 

  

 

 

 

 ドタ ドタ  バタ バタ

 

そんな、お裁縫箱の家の中から ・・・

 

 ドッタン バッタン  ドタ ドタ 

 

何かを追いかけているような ・・・

 

 バタ ドタ  バタ ドタ

 

いくつもの賑やかな足音が ・・・

 

 ド ド ド ド ・・・ バッタン バッタン

 

元気な声とともに聞こえてきます。

 

 

 

 

「あっ! そっちそっち!」

針山母さんの大きな声が聞こえます。

 

「わーっ! こっちに来たーっ!」

ムロロが、叫びます。

 

「それ! 捕まえろーっ!」

メロロが、飛びかかります。

 

 

 しかし ・・・

逃げ足が、速くて捕まりません。

 

「きゃーっ! なんで? 布が、逃げるの ・・・?」

モロロが、すばしっこく走り回る、おかしな布を追い掛けながら尋ねます。

 

「こんなに素晴らしい錦の織物の布を、初めて見たわ!」

マロロは、逃げ回る布を観察します。

 

 

 金糸や銀糸、赤糸に青糸 ・・・?

今までに見たことのない素材の珍しい糸です。

その他の色々な美しい色の糸で織り出した文様は ・・・

とても、この世のものとは思われない程の美しく立派なものでした。

 

 始めはボロだった布は、お裁縫箱の家の福を少しずつ食べ始め、

徐々に、美しい錦の絹織物に変わって行ったのです。

それが、すたこらさっさと逃げ回っているのです。

 

 

「大変じゃ~! たんすとたんすの隙間に入った―っ!」

ものさし爺さんが、慌てまくって叫びます。 

 

「大丈夫よ! これで逃げられないわ。 袋の中の鼠よ!

    みんな! たんすの周りを囲んで!」

 

 

 頼もしい針山母さんが、たんすの前にドスンと腰を据えます。

そして ・・・

 

「チョクチョク! 隙間から引っ張り出しなさ~い!」

と叫びました。

 

 

 

~  ~  ~  ~  ~

 

 

 

 

 

 「どういうこと ・・・?」

 

ボロボロの衣を着ていた、ご老体の貧乏神が ・・・

 

「落としたんじゃないの ・・・?」

 

金銀に輝く錦の衣装をまとい ・・・

 

「ニンフって ・・・何なの ・・・?」

 

ツルツルの肌の青年に変わった貧乏神に ・・・

 

「女の人にも ・・・変わるの ・・・?」

 

睨んで文句を言う、寅丸です。

 

 

 

「まあ! まあ! ・・・落ち着け! 落ち着け!」

 

貧乏神が、ふっくらして福の神のような容姿になって ・・・

 

「ついつい忘れておったわ! 親切心たんじゃーっ!」

 

こぼれるような満面な笑顔で答えます。

 

 

 

 

 

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 ある日、貧乏神の所へ闇の裁判官から一通の判決文が送られてきました。

文によると ・・・

美貌で男を騙す、とても許しがたい金持ちの女がいるとのこと。

 

 貧乏神は、さっそく女の元へ自分の分身のボロ布のお財布を送り込みました。

案の定、お財布は立派に役目を果たし、ボロ布は、天女の羽衣のような美しい布に変わっていました。

 

 その役目の帰り道、澄んだ水の流れる小川で休んでいたら ・・・

一人のお爺さんが、小川に水を汲みにやって来ました。

お爺さんは、小川の水で顔を洗うと、腰の手ぬぐいを捜します。

しかし、忘れたようで困っていました。

貧乏神は、思わず親切心で自分の持っている手ぬぐいを差し出します。

「どうぞ、使って下さい」 と ・・・

 

 

 お爺さんは、突然差し出された美しい布にびっくりします。

そして、その持ち主を見て、また驚きます。

今までに見た事もない綺麗な、ニンフのような女の人なのです。

見惚れて、ぼうっとなり夢心地のお爺さんです。

 

 そして ・・・はっとして、気がつくと ・・・

いつの間にか、女の人は霞のように消えていました。

 

 お爺さんは、美しい布をポケットにしまうと家に帰りました。

しかし ・・・

持ち主が変わった美しい布は、家に着く頃にはボロ布に変わっていました。

 

「狐に騙されたかな?」 と思い ・・・

恥ずかしいので、みんなに内緒にしていました。

それっきり、ボロ布のことは忘れてしまいました。

 

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「お財布の持ち主によって、男にも女にも若くも古くもなるんじゃー!」

貧乏神が、ニコニコして言います。

 

 そして ・・・

「わしの人生は、忙しいんじゃー! わははは ・・・」

と、大きな声で笑います。

 

 すると突然! ・・・

貧乏神のふっくらとした体が、スルスルと伸び始めました。

 

「どうしたの?」

 

 寅丸は、びっくり!

貧乏神の体が、みるみる内に糸のように細く長く伸びて行きます。

 

「わはは ・・・これは、わしも人生で初めての体験じゃー!」

 

陽気な貧乏神は、寅丸に ・・・

 

「チョクチョクに、あまり引っ張るなと言ってくれー!

 そして ・・・お財布を、連れ戻してきてくれー!」

 

と、グングン伸びながら楽しそうに、恵比須顔で言いました。

 

 

 なんたる ・・・奇妙な、貧乏神とお財布です。

 

 

 

 

 

 

 暗く冷たい空間で ・・・

 

長~い間 ・・・待ち続けていた ・・・

 

ずーっと ・・・  ずーっと ・・・

 

 

 気の遠くなるような時の中で ・・・

 

狂ったように求め続けた ・・・

 

しかし ・・・

 

求めても求めても、得られなかった ・・・

 

 

 光を見たのは、いつだっただろう ・・・

 

もう ・・・思い出せない ・・・

 

 青く澄んだ空を見たのは、いつだったのか ・・・

 

虚しい ・・・

 

もう ・・・考えるのをやめた ・・・

 

疲れた ・・・

 

 

 心が、石のように固くなり ・・・

 

岩のように重く動かなくなった ・・・

 

そして ・・・長~い時間だけが流れた ・・・

 

 

 

 

 

 どれほどの ・・・時を ・・・

 

無の世界に居たのだろう ・・・

 

分からない ・・・思い出せない ・・・

 

 

  気が付くと ・・・

 

温かい光が、体を包んでいた ・・・

 

待っても待っても ・・・現れなかったものが ・・・

 

求めても求めても ・・・得られなかったものが ・・・

 

手の届く所に ・・・

 

 

 

 

 石のように固い心が ・・・

 

光に触れて ・・・柔らかくなる ・・・

 

 重い岩の殻で覆われていた心が ・・・

 

温かい光に包まれて、一枚一枚崩れて行く ・・・

 

 

 

 長~い間 ・・・待ち続けていたものが ・・・

 

求めて求めて ・・・求め続け ・・・憧れ続けていたものが ・・・

 

白い光で、自分を包んでくれる ・・・

 

 

 気が付くと ・・・

 

自然に涙が ・・・溢れていた ・・・

 

 

 優しい光の心を感じて ・・・

 

長~い間 ・・・閉じていた瞼を開けてみる ・・・

 

固く重たい心の扉を ・・・開けてみる ・・・

 

勇気を出して ・・・

 

 

 目の前に ・・・ずーっと憧れ続けていたものが ・・・

 

夜空に浮かぶ美しい満月のように ・・・

 

一輪の白い美しい花が ・・・光り輝いていた。

 

  清らかで ・・・美しかった ・・・

 

 

 

 

 

 石のように固い心が ・・・

 

温かい優しい 光に包まれて ・・・崩れて行きました。

 

 

 そして ・・・

 

光の扉が、静かに開き ・・・

 

白い美しい光に導かれて行きました。 

 

 

 

 

 

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 ガタ ガタ  ゴト ゴト

 

大きな岩だと思っていたものが ・・・

 

 ガタ ガタ  ゴト ゴト

 

突然、揺れ出し ・・・

 

 ガタ ガタ  ゴト ゴト

 

涙を流して震えているのを見て ・・・

 

 ガタ ガタ  ゴト ゴト

 

リリたちは、驚きと恐怖のあまり動けずにいます。

そして ・・・成り行きを見守ります。

 

 

 

 清らかで美しい朱理の花が ・・・

甘い香りと白い光を放って咲いています。

 

 白い優しい光が闇の空間に輝きます。

すべてを許し、包み込んでくれるような温かい光です。

 

 

 すると ・・・

涙を流して揺れていた大きな岩が砕け ・・・

ゴトゴトゴト ・・・と、崩れていきます。

 

 そして ・・・

美しい白い光のリングが現れ ・・・

温かい光に包まれて、白い光の中へ消えていきました。 

 

 

 

  

 サラ サラ  サラ サラ 

 

気がつくと、大きな岩があった場所には ・・・

 

 サラ サラ  サラ サラ

 

清らかで美しい泉が、湧いていました。

 

  サラ サラ  サラ サラ

 

冷たくて暗い岩の牢獄は ・・・

 

 サラ サラ  サラ サラ

 

泉の湧いて流れる水音が、静かに響き ・・・

 

 サラ サラ  サラ サラ

  

白い朱理の花が、美しく咲いています。

 

 

 

 リリとボックリ隊は、訳が分からず

突然の出来事に戸惑っています。

 

でも ・・・

大きな岩が、朱理の花の美しさに感動したことは伝わってきました。

 

 

 

「良かったわ! 朱理の花が咲いてくれて・・・本当に綺麗 ・・・」

りりは、心から喜んでいました。

 

 

 

 

 昔々、悪戯者のおとうふ山の主が ・・・

闇の王様の怒りに触れて、光を失ってしまいました。

求めても求めても、光は自分の前には現れませんでした。

 

 長い時の流れの中で、いつの間にか身が亡び ・・・

冷たく固い石のような怨念だけが、大きな岩の如く聳えます。

強い光への憧れだけを残して ・・・

 

 偶然の成り行きで、おとうふ山に現れた、光の国の皇子 ・・・

皇子が携えている金の光が、岩の牢獄の鍵を緩め ・・・

 

 そして ・・・ 

偶然にも、岩の牢獄に落ちてしまった光の国の花の妖精!

 

 リリのもたらした朱理の花の種は ・・・

必要としているも者の、気持ちを感じ反応します。

 

 もしかして・・・

朱理の花の種は、花の妖精のリリではなく ・・・

おとうふ山の主の、光への憧れの強い念に反応したのかもしれません。

偶然の導きによって ・・・

 

 

 

 

 

二十二話 然る魔(しかるま)の国と闇の国の謎 

 

         一話 五月(さつき)の空とお裁縫箱の家 へ  続く ・・・