厄病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

花の牢獄(その参)

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 花の草原は、相変わらず ・・・

何の変化もなかった。

 

 なぜ ・・・ なぜだ ・・・?

どうして、喉が乾かない ・・・? おかしい ・・・ ?

 

 男は、考えた。

しかし ・・・頭の中に靄が掛かっていて

何一つ分からなかった。

 

 

じーっと、前方を見据えたまま考え込んでいると ・・・

 

「あっ!」

自分でも、びっくりする位の大きな声が出た。

 

 何かが、動いた。

目の錯覚か ・・・?

 

 いや、違う!

確かに動いている。

 

 

 ユラ ユラ  ユラ ユラ

動きのなかった風景が ・・・

 

 ユラ ユラ  ユラ ユラ

目の前の空間が ・・・

 

 ユラ ユラ  ユラ ユラ

空色の絹織物が風に揺れるように ・・・

 

 ユラ ユラ  ユラ ユラ

微かに波打ち始め ・・・

 

 ユラ ユラ  ユラ ユラ

大きなスクリーンのように光始めた。

 

 

 男は、瞬きもせず驚いていると ・・・

空色の光の中から、白い蝶が現れた。

 

 

 蝶は、白い光の尾を引きながら ・・・

 

あっちへヒラヒラ ・・・こっちへヒラヒラ ・・・

 

 何かを探しているように ・・・

 

あっちへヒラヒラ ・・・こっちへヒラヒラ ・・・

 

 

 

「あ~っ! いたいた!」

 

  そして ・・・

目的のものを見つけると、嬉しそうに近づいて行きます。

 

 

 

  ツン ツン  ツン ツン

綺麗な花を付けた茎の所から ・・・

 

 ツン ツン  ツン ツン

不自然に伸びた桃色の枝を ・・・

 

 ツン ツン  ツン ツン

面白がって突きます。

 

 ツン ツン  ツン ツン

「早く起きて ・・・」

 

 

 すると、驚く事に ・・・

桃色の枝が、ふにゅふにゅと動き始めました。

 

 

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 キラ キラ  キラ キラ

 

一人の少年が、走ると ・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

美しい輝きが ・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

草原の風に乗って、流れて行きます。

 

  キラ キラ  キラ キラ

 

金色の光を、辺り一面に舞い上がらせながら ・・・

 

 

 

 少年は、自由に動き回れるのが嬉しいように

飛んだり跳ねたり回転したり、とても楽しそうに卯の花草原を走り抜けて行きます。

 

 少年の動きに合わせるように、金の光も

飛んだり跳ねたり回転したり、キラキラ輝きながら真似をします。

まるで、意志があるように ・・・

少年は少しづつ、その事に気がつき始めていました。

 

 

 すると ・・・

 

 モア モア  モア モア

 

その光に導かれるように ・・・

 

 モア モア  モア モア

 

一つの黒い影が、動きます。

 

 モア モア  モア モア

 

煙のように、静かに近づきます。

 

 モア モア  モア モア

 

少年は、黒い影に気がつき動き止めます。

 

 

 それに合わせるかのように ・・・

黒い影が、煙のように大きく膨らみ始めます。

そして、少年の前に立ちはだかります。

 

 

「フフフ ・・・ 良く気がついたな!

 お前は、誰だ! どこから来た?」

黒い影が、話かけてきます。

 

少年は、首を傾げます。

 

「ここが、どこか分かるか?」

 

光の少年は、首を横に振ります。

 

「名前は ・・・?」

黒い影はモヤモヤと、一段と大きくなりながら尋ねてきます。

 

 少年は、また首を傾げます。

そんな事を考えたことがなかったのです。

悩んでいると ・・・

 

「名前は、ないか ・・・? 親に付けて貰わなかったのか?

 それとも ・・・まだ、逢ってないのかな ・・・? 

  もったいないな!可愛いのに ・・・」

 

光の少年の金色の瞳は、じーっと黒い影を見つめています。

 

「ふふふ ・・・ まあよい! 俺は、厄病神だ!

 困ったら、俺の名前を呼べ!」

 

 

 モア モア  モア モア

 

低く湿った声が、そう言うと ・・・

 

 モア モア  モア モア

 

黒い影は、大きく膨らみ ・・・

 

 モア モア  モア モア

 

空間の中に、煙が吸い込まれるように ・・・

 

 モア モア  モア モア

 

消えてしまいました。

 

また、元の秋の風に揺れる卯の花草原に戻りました。

 

 

「名前 ・・・? 厄病神 ・・・?」

そう言うと・・・ う~ん? と、首を傾げます。

 

 少年は、黒い影が消えて行った空間を見つめます。

そして ・・・ 何事もなかったように、

また金の光を輝かせながら走り始めました。

 

 

 

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

金色の髪の少年は ・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

金の光を体に感じて ・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

 

和らいだ日差しが眩しい卯の花草原を ・・・

 

 キラ キラ  キラ キラ

 

元気いっぱいに走り抜けて行きます。

 

 

 すると ・・・

また、どこかから声が聞こえてきました。

 

「あなた誰 ・・・?」

さっきの黒い影の湿った重い声とは違います。

キョロキョロしていると、・・・

 

「どこから来たの ・・・?」

明るい軽やかな声が、話かけてきます。

声がする方を見ます。

しかし、声が聞こえるだけで姿が見えません。

 

「ここ、どこだか分かる ・・・?」

少年は、じーっと声のする空間を見つめます。

 

 

 

 

 

 

 薄い暗闇の中で ・・・

いくつもの目が、キョロキョロしながら息を潜めています。

 

 

 すると ・・・

暗闇の中から一つの小さな光の種が輝き始めました。

 

「成功したわ!」

嬉しそうなリリの声が、聞えます。

 

「やったーっ!」 「すごいぞーっ!」「ばんざーい!」

どんぐり兵たちの歓喜の声が上がります。

 

 

「でも、まだ安心できないわ! ここからが大事なの!」

 

 

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 闇の国の入り口、闇の扉から ・・・

スッキー魔と入れ替わるように落ちてしまった

光の国の花の妖精リリと、おとうふ山の出来立てほやほやの

ボックリ隊長率いるどんぐり隊は、闇の国の薄暗い岩の牢獄の中に閉じ込められていました。

 

 

 闇の国では、厄病神が持っている閻魔帳に

名前が載っていない者が現れると、闇の国の裁判官の一人

紋白蝶の化身の此花(このか)が作り出す花の牢獄か、

闇の国の獄卒、ゴズの治める岩の牢獄に閉じ込められるのです。

 

 

  

 リリたちは、どうやらゴズの治める岩の牢獄に閉じ込められたようです。

 りりは、光の国の光の卵の中から産まれてから今まで、

こんなに暗く光の届かない所に来たのは初めてです。

 

「良かったわ! あなたたちと一緒で ・・・」

心配顔をしているボックリ隊を見ながら微笑みます。

 

「でも、リリさん。 これからどうしますか? こんなに暗い所で ・・・」

困っているボックリ隊長が答えます。

 

 リリは、薄暗い岩の牢獄を見渡すと ・・・

 

「大丈夫! 私に任せて!」

そう言うと、手のひらを合わせてふーっと息をかけます。

 

 すると ・・・

手のひらの中に小さな種が現れました。

どんぐり兵の隊長のクリクリは、瞳を大きく開けて

「うわーっ!」 と、叫びます。

 

 カシとナラのどんぐり兵も、口を大きく開けて

驚きながら、リリの手のひらの小さな種を見ます。

 

 

 

  リリは、手のひらで種を温めます。

しばらくすると ・・・種がほんのり光を放ち始めました。

どんぐり兵たちは、息を潜めて見守ります。

 

 

 しかし ・・・

種が光ったのは、つかの間、種の光が消えてしまいました。

 

「ふーっ! 難しいわ!」

リリが、肩を落として残念がります。

 

周りで見守るボックリ隊も、肩を落として息を吐きます。

 

 

 リリは、薄暗い岩の部屋を明るくしようとして、

光を放つ朱理(あかり)の花を咲かせようとしていました。

 

 

 しかし ・・・

朱理の花を咲かせるのは、とても難しく

リリは、まだ一度も成功させていませんでした。

 

 

「ふーっ!」

息をかけて、手のひらで温めます。

 

何度も、何度も挑戦します。

しかし、なかなか上手くいきません。

 

 

ボックリ隊も、息を止めたり吐いたり

成り行きを見守ります。

 

 

 リリは、意識を集中させます。

そして、女神様の言葉を思い出します。

 

 

「いいですか。 朱理の花は、相手の気持ちを感じます。

 本当に必要とされている時にだけ、美しい花を咲かせます。」

 

 

 リリは、気持ちを集中させ ・・・

大きく深呼吸すると、ふーっと息を吹きかけました。

 

 

 

 

 

二十一話 厄病神の閻魔帳と貧乏神のお財布

 

         花の牢獄 (その四) へ続く ・・・